HicK

セッションのHicKのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.4
《怪物、怪物を生む》

【一点のカタルシスへ】
フレッチャーに対して、とにかく怖い、不可解、ムカつくというフラストレーションを溜めつつ、主人公アンドリューの未熟さにも共感しながら、互いに落とし落とされ、全ての鬱憤をクライマックスでぶち撒けるという、一点のカタルシスへまっしぐらな作品だった。のちの作品にはなるが、"怒りと狂気の「ボヘミアン・ラプソディ」"。

【狂気の伝染】
フレッチャーは本当に(演出としてはいい意味で)不快だった。 「厳しさにも意図が…」っていうスポ根の比じゃない。むしろ意図をくもうとしたアンドリューが裏切られる展開。不可解な指導を受け続ける彼は「お前が何でもありなら俺もお前のルールで戦う」というかのように飲み込まれていく。(これ、未熟さゆえの反抗かもしれないが、恥ずかしながら分かりみが深い)。結果的にフレッチャーが乗り移ったかのように、彼に似てしまうアンドリュー。狂気の伝染。より過激な「プラダを着た悪魔」。

【監督=アンドリュー?】
解説を読むと、チャゼル監督の学生時代の厳しい経験も反映されているようで。その時の怒りや「本当はこうしてやりたかった」っていう復讐心に近いものも主人公のアンドリューに絶対乗せてると思う。復讐心って感じてしまうところが、未熟なのかな? 笑。でもそうじゃないと、ここまで狂気に満ちたフレッチャーは描けない。監督ほどでは無いが、劇中の2人を見て、言葉より先にパイプイスが飛んできた学生時代と、分からない事が分からず怒られた新人時代が蘇る。

【J.K.シモンズ】
狂気に圧倒された。息を飲んだ。彼の目。意図のない目線が無いのでは?と思うほど、どの場面の目にも殺気や執念、悲しさ、時に寂しさが感じられた。特に最後はその「目」がなければ、作品として終われなかったと思う。さらには血管まで演技をしているようだった。劇中のスウェアワードの数々は彼のアドリブなのか?面白い言葉が次々出てくる。

【演出】
演者の手元のアップとか、汗とか、トランス状態に近い演出とか、臨場感がありすぎて脇汗をかくという珍現象が起こった 笑。演奏経験者としての監督による「ここを見てくれ」的カットと体感演出がとても効果的。物の撮り方、背景のボヤかし、ひとつひとつがオシャレ。

【総括】
「現代は優しすぎて才能が生まれない」というセリフも吹っ飛び、才能が生まれる前に命が亡くなる狂気の祭典。自分のように少なからずトラウマを抱えている人はひたすら胸糞だが、全てはクライマックスのための"オカズ"として機能し、フラストレーションが溜まれば溜まるほどラストの2人に昇天する。とにかく「目」「音」が最高な芸術作品。

狂気の伝染。怪物が怪物を生む。
HicK

HicK