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愛するとき、愛されるときのshishiraizouのレビュー・感想・評価

愛するとき、愛されるとき(2010年製作の映画)
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瀬々監督作品としては『ヘヴンズストーリー』と同じ2010年公開で、あまり話題にのぼらなかった。レジェンドピクチャーズ製作だと(他の監督でも)どこかだらしない映画になる傾向があると思いますが、SNS や匿名掲示板等にアップされる画像やデジタルな書きこみとして、世界の片隅の瞬間瞬間が切り取られる、そのアンダーグラウンド感が、8ミリ感ともなって、ここではラフさとしていちおう効いている。レジェンドでのピンク系では、この前に『サンクチュアリ』があって、あとに『マリアの乳房』が続く。

ある地方。東京から短絡的な出逢いを求めて繰り出してくる男らと関係をもっても、ひとつの季節の遊びとして女たちは捨てられる、「ヤリ逃げの街」。そのような距離感の地方。
田舎らしいそっけない家には、庭があってその周りにせせこましく色んなものを植えて育てている畑があり、ビニールハウスや柵や草木をわけて斜面をくだると、河川が、みっしり繁った草地を切り裂いている。川は近くの海に流れこんでゆく。
ひらけた絶望感。『サンクチュアリ』の家屋まわりの空間にあった貧しく空虚なかんじとも響きあう。そして『サンクチュアリ』と同じようにこの映画にも、ふたりの女がいる。
事務員として働きつつ痴呆症の父(志賀廣太郎)の世話をしながら生きている地味顔の姉の佑子(江澤翠)はブログの更新が息抜き。男ずきのしそうな垂れ目、妹の奈緒(晶エリー)は男(吉岡睦雄)との不倫の露出写真がネットに流出している。
既に亡くなった母(江澤翠が二役)にはずっと愛人がいた、それが伊藤猛。(夫と愛人、志賀廣太郎も伊藤猛も今となっては亡きひとになっていることに違うかなしみがあります)

そこへネットで連絡をとった男がある事情から東京からやってきて、姉の佑子と出逢う。石井と名乗る男(河合龍之介)。一日限りのふたりの道行きがはじまる。
つよい海風に吹かれて、出会ったばかりのモンキーパンチ石井と姉が並んで食べるアメリカンドッグの柔らかさ。温かいのかもう冷えているのか。
石井と佑子は街を海を山をさまよい、妹の愚行をなぞるように露出プレイをくりかえす。ボウリング場。さびれたスナック。道の上。絶望的な閉塞のある風景に、裸体がひらめき、絶望と閉塞をより鮮やかに示す。
男は、女は、どこへいくのか。彼らの性的遊戯に歓びはなく、自らと、その生活をともに傷付ける。痛々しい風景は痛々しい裸体となる。
それでも、誰かのために、愚かしくも必死で生きることの意味が、やがて奪われる。妹のために、家族のためにしたことが、なんの意味もなかったと判明する。意志も、動機も、誇りも、欲望さえもなく、純粋な「愚かさ」そのものとして、男女の道行きは映画を駆動する。「愚かさ」の体現者たちは、暴力にさらされ、煉獄を駆け抜け、愛なき世界でどこにたどり着くのか、エモーションの持続の果てを見守るーー

姉は、妹の愚かさに同一化し、手を差しのべることで、人との関係がはじまると、同時に幼かったころのふたりの少女のビジョンが幻視される。
家の裏手を走り、川辺にゆくと、かつて少女だった姉妹があらわれる。石井の目の前、野原での露出オナニーには、妹の露出性交のイメージを浮かべると、幼い姉妹の野原での戯れがビジョンとして現前する。〈セックスをしているときも独特にさびしさを感じさせる。快楽のむこうに「家族」という夢を求めているからだろうか。〉

幼い姉妹を演じるのは大坂美優と大坂真優の実の姉妹。その黒く清んだ印象。〈きゃしゃな体、魅力的な目〉。同時期の『ヘヴンズストーリー』で家族を失ったヒロイン、幼少期のサト(本多叶奈)、現在15歳のサト(寉岡 萌希)が同時に存在するかんじとも、あるいは『感染列島』に登場する13歳の少女、夏緒ともよく似ている、瀬々的少女たち。

煉獄の道行きの果てに、幻視されるのは家の裏手の川辺で遊ぶ幼い姉妹。それをやさしく見つめる母(江澤翠、大人になった自分でもある)。母の遺影を胸に父と幼い姉妹が写真におさまるイメージとともに、離れて死に瀕した石井を救出に半裸の佑子は海辺へと向かうーー

福間健二は瀬々映画に登場する少女について〈いつも謎をかけているような妖精的な力〉をもち、〈きゃしゃな体、魅力的な目、そしてやはりこの世界の秘密に通じていそうな生意気な表情〉を見せ、〈勇敢で、謎めいていて、そしてさびしがりやの少女〉のその〈肢体は、セックスをしているときも独特にさびしさを感じさせる。快楽のむこうに「家族」という夢を求めているからだろうか。〉と書く(「少女モモの冒険」「問いかける少女」)。〈幼いときの純真さ、ひたむきさをかかえたまま「女」になってゆく〉〈暗い少女〉は、〈この世界の、解けない問いを背負っ〉て、その先へ、その先へと、愚かさを武器としてぶつかってゆくーー

キャスト
佑子・母 江澤翠
奈緒 晶エリー
モンキーパンチ石井 河合龍之介
父 志賀廣太郎
奈緒の恋人吉岡睦雄
母の愛人 伊藤猛
債権者 諏訪太郎
佑子(少女時代) 大坂美優
奈緒(少女時代) 大坂真優
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