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あの頃。のshishiraizouのレビュー・感想・評価

あの頃。(2021年製作の映画)
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初日に観賞。ロビーに女子中高生がいっぱいいるなあと意外に思ったが彼女らは『ライアー×ライアー』のほう目当てだったようで、『あの頃。』のほうは普通にハロコンぽい客層

ライブ会場。いまおかしんじの隣に座る松坂桃李くんのインナーは男の墓場プロのTシャツだが、[男]の文字が隠れている。同性でつるんで異性を生きがいにする世界が呼びそうな、ハラスメント的な何かを避けなければならない現在的困難があらわれているカット。杉作J太郎が[男]の看板をおろしたのもこの映画が撮影された2020年

いつもは男女間の、“なんとも知れん”関係性に鋭敏な今泉監督。今作ではおもむきは異なり、同性でほぼ同世代のヲタ仲間という、ゼロ距離の関係性と、虚構的異性であるところのアイドルという極大距離のある存在との(非)関係性、両極の関係性が配置される

あの頃、この世界を、間違いのないように慎重に描いたとおぼしい界隈の描写は、置きにいったボールのように生気に乏しく、銭湯の湯舟での横並び、イベントでの横並びの歌唱場面が象徴するように、単調に並べられた“個性豊かな面々”が、おのおの魅力的な演技を披露するそのスキルにまかせた場面づくりに留まって映る。何度も出てくる、ライブハウス前の階段前のシーン、画面としても空間としても面白味に欠ける

一方、同じ階段でも、松浦亜弥の待つ握手会会場、対面する場に向かう、ひとけのない階段を折り返して登る、その遅くねっとりとした感触には単調ながら独特な魅惑の灯がともる。そこには、性的ともちがう、ある特異なエナジーが発生していて、生きる駆動力として確かにそういうものがあるという感触

原作を読みかえしてみると、そこにあった(救いのないほどの)「愚かさ」は、映画では(共感範囲内の)「愛らしさ」に巧妙に置換し脱臭されていて、結局のところ、反感を買いづらいくらいのほどよい変化球の青春映画バリエーションに着地していると思いました
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