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戦場のメリークリスマス 4K 修復版のshishiraizouのレビュー・感想・評価

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2021.4.26 新宿武蔵野館

立川シネマシティでは女性客が目立ったとあったが、ここ新宿では中年老年男性が優勢。グッズは『愛のコリーダ』のものも含めてほぼ売り切れ。パンフレットは樋口尚文の文章だらけだが2作品で900円の価値あり。『大島渚のすべて』(キネマ旬報社)の樋口氏の戦メリ評、素晴らしいと思います

さて戦メリのテレビ初放映はいつだったんでしょうか。ネットには日曜洋画劇場が初だったという話がチラホラある。筒井康隆『日日不穏』の「1984年12月23日(日)」の項を読むと〈「戦場のメリークリスマス」はじめてテレビで見る。物語も映像もえらく高級であるが、この面白さ、ほんとに大多数の観客が理解したのであろうか。あんなに一般受けしたのが不思議に思える〉とある。公開から1年7ヶ月だから順当にこれが初回だと思われる

円尾敏郎がテッケン叢書創刊準備号というのをかつて発行していて、その3号は森崎東インタビュー。ここでは森崎『塀の中の懲りない面々』と大島『戦場のメリークリスマス』との比較が語られていました

ーー「塀の中の懲りない面々」の中で、独房に入れられた藤竜也さんが、一人言を重ねていた時に、隣の独房でそれを聞いていたケーシー高峰さんが()声の表情(響き)から記憶をたどっていく場面があります()壁越しの会話で「戦場のメリークリスマス」でも同じようなシーンがありましたが()どうも上手くいっていないようで、今回の「塀の中の懲りない面々」を見て、うれしくなったのですが。
森崎 「戦場のメリークリスマス」では、えんえんとあったなあ。あれは。
ーー向こう側の独房にいるということを、どのように演出したらいいのかなあと考えたんですけど。
森崎 あれ(「戦場のメリークリスマス」)はね、窓越しじゃなくて、壁で、こうやって壁と壁とをカットバックするんだよ。でもそれは、基本的にはなりたたないんだな。()やっぱり、窓と窓だな。「塀の中の懲りない面々」では基本的には窓からの空気を媒体としたパンではじまっているから、パンもどしもした。空気を通じてね。
(1988年8月インタビュー)

‥という文章が頭にあって、子供時代いらい久しぶりに戦メリを再見してみると、確かに(岩っぽい)壁でとなりの独房とは隔てられているのですが、片方が過去の話を語りだすと基本的に語り手の側にカメラは固定され、リアクションとしてのカットバックはおこなわれない。片方の話が終了し、もうひとりの話のターンになるとカメラはそちらに移動してしまう。そのあと突然、命令で独房から一人が連れ出されるとき、鉄格子の前を通るので確かに隣に居たとそこで観客に認識されるのだ

記憶ではセリアズの回想シーン、花畑をゆっくり這ってかき分けて進むような超低い移動撮影があったような気がしていたけど、無かった
セリアズの弟がいじめの洗礼にあっているとき、その横、舞台装置のような階段上にセリアズがいる。リアルの回想ではなくて、心象を反映した歪んだ記憶の提示。家の前に咲き誇る花々も、ほんとうにあったんだろうか

坂本龍一/ヨノイもデヴィッド・ボウイ/セリアズも、化粧をするひととしての記憶、パブリックな印象があり、この映画では、それが剥ぎ取られた、むき出しのヒリヒリする肌の、魂がゴツゴツ不器用に何かに擦れるような感覚がある。当時のたけし/ハラ軍曹も、タケちゃんマンのイメージが大きく存在していて、顔を塗りたくっていない、ヌルリとした、あらわなモノとして顔がある

もうひとつ記憶ちがいで言うと、死刑宣告されたセリアズが、パントマイムで髭をそり、幻の煙草をふかすシーン、長年ラストちかくの場面と勘違いしていたけど、開巻早々の軍事裁判のあとのシーンでした。この、なにも手にしていないが、尊厳だけは失わずに自らの皮膚を確かめるように撫で、呼吸を嗜好品のように嗜む、社会的要素を剥ぎ取られても、魂が裸でいて確固たる人間である姿の官能。ヨノイの惚れるものがある。揺れる感情のように揺れるカメラがセリアズからヨノイに向い、ヨノイは初対面で大尉、と呼ばれ、ヨノイと呼んでくれと応える、はじめから、愛のようなものが始まっていた

トム・コンティ主演の『ホワイト・ローズ』(89)がシネマスクエアとうきゅうで公開されたとき、こういう映画が単館興行としてペイできるものなのか、トム・コンティに戦メリ効果の興行価値は残っているのかな~と若年ながらボンヤリと。当時は知らなかったけど、シネマスクエアとうきゅう(81~)を立ち上げたのはヘラルド・エースの原正人(と東急レクリエーションの堀江鈴男)で、そのオープニング作品である『ジェラシー』が〈当時僕は『戦場のメリークリスマス』を実現すべく動いていたから、プロデューサーのジェレミー・トーマスとの関係で買い付けたシャシン〉だったというのだから、『ホワイト・ローズ』も戦メリ的なトム・コンティとの繋がりがあっての公開だったのかもしれない
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