emily

東京ゴミ女のemilyのレビュー・感想・評価

東京ゴミ女(2000年製作の映画)
4.0
喫茶店でウエイトレスをしてるみゆき。彼女の唯一の楽しみは同じアパートで暮らす好きな男のゴミを漁ること。彼のすれ違っても声をかけることはできない。ゴミを漁ることで彼のことがどんどん見えてきて、近くに感じる。

室内灯のオレンジの光の中、幻想感のある部屋で、やってるのはゴミ荒らし。食べながらゴミ漁りしたり、時には生ゴミもある。そこから名前や何やってる人か、女の影も分かる。同じタバコを吸い、吸殻を瓶にコレクション、同じシリアルを食べ、どんどん依存していく。しかしゴミには全く生活感や汚さがない。なぜなら彼はまともなものを食べていないからだ。きちんとそこには意味があり、理屈も通ってる。

彼女目当てで通ってくるサラリーマンの対応が非常に冷たい様から、不器用だが真っ直ぐな女性だと分かる。タバコをたかる同僚との、会話もリアルで害はないが薄っぺらく、逆に現実離れして感じる違和感を残す。それが普遍的な会話でありつつ彼女のゴミ漁りの毎日を『普通』としてとらえつつあるから、この不気味な違和感を残すのだろう。

彼女の依存はどんどん進行していく。シリアルや野菜を玄関先に置いたり、ストーカー女に説教をしたり、しかしその展開に違和感を感じることなく、皮肉すら爽快に思えてしまう不思議がある。それはゴミを漁るまでの行為でなくとも観客もSNSをチェックしたりして、なんか彼の生活を知ったような、近づいたような気になる感覚が身近なものであるからではないか。

ゴミ漁りは夢物語である。届かない叶わないから意味があるのかもしれない。叶えばそれは現実になるから。漁って想像して、幻想に生きる。届かないものを追いかける夢物語は当然終わりが来る。終わりを決めてからのダブルパンチを与えるストーカー女とのやりとりの皮肉が非常に良い。

喫茶店の同僚タバコをいつもたかる感じ、水のお代わりをねだるおじさん、彼女が夢から覚めてもそこには変わらない同じ現実が続いている。しかし彼女から見える世界は確実に変わっただろう。
emily

emily