しゃにむ

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅のしゃにむのレビュー・感想・評価

4.7
「ノー・マジ…いや、マジで」

< 阿呆生物とその潜伏池 >
ロン・パールマンは喋るゴリラであって魔法生物ではありません(半ギレ)

↓あらすじ
ハリーの時代から約70年前の1926年のニューヨークに魔法生物研究者のニュート・スキャマンダーが訪れる。ニュートは魔法生物の書物を記すため世界中を旅をして魔法生物を魔法のトランクに納めていたが、手違いからマグルの手に渡り魔法生物達がニューヨークに放たれてしまう。マグルと魔法使いのいざこざが多発する不穏な時代故に、魔法使い側がトラブルを起こせば戦争に繋がりかねないのでニュートは魔法生物達を探す事に…

・総評
暗い…ルーモスを唱えましょう。又はシャニムーンを探しましょう。世紀のファンタジー大作ハリーポッターのスピンオフ作品。ホグワーツ生お馴染みの「幻の生物とその潜伏池」という教科書の著者ニュート・スキャマンダーにスポットライトを当てた物語…スキャマンダーとは誰ぞや…自分もそんな感じでした。本家とは馴染みの薄いキャラクターではありますが、何せハリポタの新作ですからその点は余り気になりません。主要キャラこそ出ては来ませんが、聞き慣れた呪文や名前がちらほら出て来て作品の雰囲気も完璧にハリポタだから安心して鑑賞出来ます。注意点としては明暗のギャップ。CM等で観た限りでは、可愛らしくて奇抜な魔法生物がわんさか出てくる明るいファンタジー…というような事前のイメージが形成されますが、内実は本家後半部のような、どんよりしたダークな雰囲気が微かに付き纏います。それもそのはずで、この作品の主題はマグル(正常者)と魔法使い(異端者)の確執、対立、不調和…といった不穏なものと受け取れます。ダークな部分は本家と似ていますが、こちらは普遍的にも拡張出来る、理解し合えぬ者同士の対峙という社会的な深遠な主題が盛り込まれているので重苦しさの質が違うようです。従来はホグワーツ(魔法界)のみが舞台となり異端者としての魔法使いが描かれることが無かったので「現実に魔法使いが居たらどうなる?」という真面目な描写がなかったです。だから今作はファンタジー(虚構)でありながらリアル(現実)も描く意欲的な作品でしょう。

・ホグワーツの外
我らが母校ホグワーツでは魔法(異能)がある光景が当たり前でした。ホグワーツ(ファンタジー)の中に現実が包摂されて居たからあまり現実問題は疑問に感じませんでした。ところが今作の舞台はニューヨーク。そこに魔法界の住人がやって来る。言って見れば現実がファンタジーを包摂する関係です。故に何でもありのファンタジーも何でもなしの現実問題に格下げされてしまいます。現実(人間)世界では魔法界は危険集団と認識され、迫害や差別は当たり前。マグルと魔法使いの戦争が起こるんじゃないって不安定な状況です。中世の魔女狩りみたいなことを主張する「救世軍」なる集団も存在します。人間は自分に近くて違う理解出来ない存在をやっかんで排除する本能があることはご存知の通り。ここで言う魔法使いはあらゆる要素に置き換えられそうなので普遍的に解釈出来そうです。観てて悲しいくらい物騒。ファンタジーなのに彼らの住む世界は明るくない。現実世界を観ているような暗い気分になりますが、今まで描かれなかった「ホグワーツの外」がシリアスなに描かれて居て斬新な試み。面白い。

・アウトサイダー
本作の主人公にあたるニュート・スキャマンダーは終始「部外者」の位置にいます。考えてみれば、彼は逃げ出した魔法生物を捕まえるのが目的です。たまたま重大事件に巻き込まれる形になっただけです。ニューヨークの魔法秘密機関の人々がことを荒立てないよう駆けずり回っているのにニュートは何処吹く風といった感じに構えています。学者肌の人は社会に無関心…研究者に抱くそんなイメージが彼にピッタリ当てはまりました。人間界から見ても部外者。ニューヨークの魔法界から見ても部外者。部外者が主人公って。それでも真ん中で堂々と映えるのはエディ氏の自然な演技の賜物でしょう。安直に考えると、通りすがりの旅人が人種問題に類似する魔法使いとマグルの軋轢に関係する展開には共感出来ない気がしますが、ある少女との挿話のお陰で納得のいく展開になります。飄々としてて話聞いてるのかな〜という雰囲気の学者ニュートですら躍起になる程この時代の時勢は緊迫しているのでしょう。彼は旅人、根無し草だから、ピリピリムードも受け流すクッションのような役割を果たしています。

・人類の脂肪
1930~30年代の時代に付き物の胸騒ぎは第二次大戦を予感させます。この作品にもそんなものがあり…特に「オブスキュラス」と呼ばれるものが禍々しく悲しい。暴走により抑圧され溜まりに溜まったものが一気に噴き出て嵐のように荒れ狂う。今現在地上で頻発する暴力の嵐を見るようなやり切れなさ。こんなものを生み出してしまう人間の業の深さ。自分にはネガティヴな印象しか受け取れませんでしたが、ニュートに同行するマグルの缶詰職ジェイコブ氏が唯一の救いでシリアス・ブラックなムード漂う中で彼のユーモラスな言動は良い緩和剤となります。個人的に気に入ったのは夜の動物園のくだりです。サイのような魔法生物をトランクに誘き寄せるべくエディ氏が奇怪な求愛ダンスを披露し、なんだかんだでジェイコブ氏にサイが発情してジェイコブ氏の肛門目がけて下校…おじさんの貞節が危ぶまれる(誰得な)シーン。他にも銀行強盗や宝石強盗の際の反応にも爆笑。マグルと魔法使いの明るい未来も無くはない…と予感させる2人の友情に涙ほろりでした。

・阿呆生物とその潜伏池
余談…ホグワーツ魔法学校の受験に失敗しホモワーツ阿呆学校に入学して早3年と半年のしゃにむに氏は魔法省に入るべく毛勉強中の身ですが、先月のビフ大統領選の手伝いをして有権者にπ乙型の肉まんを配布して回ったことが法律に引っかかり、アズガバンに囚獄され、自販機相手にお辞儀をする病みの帝王として君臨してますが、来月中には脱獄しデススターの設計図を手に入れデススターを使って月面にレイヤ姫のビキニ姿を焼きつけて全宇宙を恐怖のどん底に陥れてみせます。
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