サマセット7

ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密のサマセット7のレビュー・感想・評価

3.7
ハリーポッターシリーズのスピンオフシリーズ「ファンタスティック・ビースト」シリーズの3三作品目。
監督は「ハリーポッター不死鳥の騎士団」以降のシリーズ作品で監督を務める、デヴィッド・イェーツ。
主演は「博士と彼女のセオリー」「リリーのすべて」のエディ・レッドメイン。

[あらすじ]
前作後、1930年代ヨーロッパ。
前作にて自由の身となった黒の魔法使いグリンデルバルド(マッツ・ミケルセン)は、人間界を滅ぼすべく、新たなる策謀を巡らせる。
魔法動物学者ニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)は、伝説の魔法生物「麒麟」の出産に立ち会うが、グリンデルバルドの手の者の襲撃に合い、麒麟の幼生を奪われてしまう。
麒麟を用いた陰謀を関知したニュートの恩師ダンブルドア教授(ジュード・ロウ)は、ニュートに秘策を授ける。策の実行のために、ニュートのもとに勢ぞろいしたのは、出自も特技もバラバラのデコボコチームで・・・。

[情報]
2022年公開のファンタビシリーズ第三作品。

J.K.ローリング作の小説を原作とするハリーポッターシリーズは、魔法学校における少年少女の成長を、1作1年ごとに描く点に特徴があった。
J.K.ローリングが脚本を手がけるスピンオフのファンタビシリーズは、1928年から1945年までの、第二次世界大戦下の魔法世界を5部作で描くとされている。

主役は、ハリポタシリーズで教科書の著者として名前が出ていた魔法動物学者ニュート・スキャマンダーであり、魔法生物を大きく取り上げる点にシリーズの特徴がある。
また、ハリポタシリーズにおいて老境にあったダンブルドア校長の若き日が描かれる点も注目を集めている。

3作目の折り返しである今作は、まさしく、前作でいよいよ顔出ししたダンブルドアが、物語に全面的に関与を始める作品となる。
演じるのは、「ガタカ」「リプリー」などのジュード・ロウ。
なお、今作から、共同脚本に、ハリポタシリーズの脚本家スティーヴ・クローヴスが復帰している(前2作には製作として参加)。

他方で、ファンタビシリーズ最大の悪役である黒の魔法使いグリンデルバルドは、前2作ではジョニー・デップが演じていたが、妻に対するDVが大きく報じられ訴訟沙汰になるに及び、今作では降板。
今作では、同役を「007/カジノロワイヤル」「偽りなき者」のマッツ・ミケルセンが演じている。

ファンタビシリーズは、1作目がアメリカ・ニューヨーク、2作目がフランス・パリを舞台にしており、作品ごとに大都市を巡っていく趣がある。
今作では、ドイツ・ベルリンが主要な冒険の舞台となる。

今作は一般層からの評価は前作に比較して上方修正されたように見える。
一方で、相変わらず、批評家の評価が分かれている作品である。

2億ドルの製作費をかけて作られ、興収は4億ドルほど。
前作が6億ドルを超えていたことことと比較すると興行成績を落としたが、新型コロナウイルスによる影響が大きいと見られる。

[見どころ]
ニュート、ジェイコブ、クイニー、クリーデンス・・・。
あのキャラは、その後、どうなった?
大作シリーズである以上、続きが気になったら見るしかない!!
いよいよダンブルドア本格参戦!
ジョニー・デップもよかったが、マッツ・ミケルセンの冷酷な感じもよい!!
中盤のハイライトは、サソリ風魔法生物だらけの監獄!!!
ファンタビに求めているのはこれだ!!

[感想]
シリーズを追っている以上、見る以外の選択肢はない。
作品としては、シリーズの中では平凡な出来のように感じた。

個人的に、ハリポタシリーズの面白さは、魔法学園のギミックの楽しさと、学生同士のわちゃわちゃした関係性とその変化、そして各作品にツイストを入れ込んだストーリーの妙にあった。

ファンタビシリーズでは、魔法学園のギミックに代わる魅力として、魔法生物の生態描写があり、また、学生同士の関係性に代わる魅力として、ハリポタ前世代の語られざる歴史を知る点があるように思っている。

こうした観点からして、今作は、魔法生物の生態関係の描写は、前二作ほど多くない。
麒麟がらみと、中盤の牢獄のシーンがそれで、このあたりは大変楽しんだ。
が、もっともっと頂戴!!!というのが、本音だ。
魔法世界の政治関係に尺をとられて、魔法関係のギミックを描く尺が減る、というのはハリポタシリーズ中盤以降と同様の構造的な問題だろう。

ハリポタ前世代のキャラクターとは、すなわち、ダンブルドアなわけだが、今作ではダンブルドアの過去の愛憎がある程度明らかになり、その意味では興味深い。

むしろ、今作の最大の見どころは、前作で悲劇的な展開を迎えたジェイコブとクイニーの関係が描かれる点と、前2作で大きく描かれてきたクリーデンスのその後が描かれる点にあろうか。
中でも作中でも珍しいマグルのメインキャラクター、ジェイコブは、好きなキャラクターでもあり、応援できた。

他方、シリーズの特徴であったツイスト味あふれるストーリー展開は、今作ではさほどでもなかったように思う。
視聴者の予想を裏切るのが困難、というのは前日譚ゆえであろうか。

全体としては、長編シリーズの間を埋める作品、といった印象。
映画の大型フランチャイズ化は最近の潮流だが、こういった「埋め」にくる作品が昔よりも多くなっているような気がするのだが。

[テーマ考]
ファンタビシリーズ全体のテーマは、おそらく、分断と共存であろう。
マグルとの分断を呼びかけるグリンデルバルドと、共存を謳うダンブルドアの対比は象徴的だ。
マグルと魔法使いを超えて、魔法生物とすら心通わせるニュートが主人公を担うのは、こうしたテーマの反映と見る。
いうまでもなく、こうしたテーマは、現実世界の社会問題の反映と考えることができる。

今作も、こうしたシリーズのテーマを踏襲したものと思われる。
中でも、マグルのジェイコブと魔法使いのクイニーの二人のカップルの行く末は重要だ。
ニュートが結集するチームのメンバーが人種も性別も多様なのは、示唆的である。

[まとめ]
大ヒットシリーズの、間を埋める一作。

今作を代表する魔法生物といえば、やはり麒麟であろうか。
麒麟が主上を決める、という元ネタは、おそらく中国神話なのだろうが、どうしても小野不由美の「十二国記」シリーズを想起させる。
個人的好きな小説ランキングベスト10には優に入る、傑作シリーズである。