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あんのRiNのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
4.1
「わたしだって、好きで言ってるんじゃないのよ」

悲しい宿命とでも言うべきでしょうか、差別の先陣を切るのはいつの日も女性のように思います。彼女たちは、その多くが男性のそれよりも情に厚く、守るべき子供や家族や恋人や、それに準ずるコミュニティを持っており、自分よりも彼らを守るために、情報にとても敏感です。
移る「かもしれない」病、怖い「かもしれない」人々、危ない「かもしれない」場所、彼女たちはそれらをシリアスに避けて生きていきます。何かあってからでは遅いのです。その気持ちを、不安や危惧を、考えすぎだ、と一笑することは簡単です、無理解や無学だと責めることは正義です。ですが、一度でもその思いに守られたことのあるわたしやあなたにとって、それを悪だと、曇りなく責められるでしょうか。

「自由なんだもの」
徳江さんは、劇中なんどもそう言います。自由は、幸運です。
しかし、自由でいるには強くなくてはいけません。強いというのは、七転び八起きということです。何度倒れても立ち上がることです。そして、その強さは現実でしか鍛えられない種類のものなのでしょう。
主人公千太郎は、超よわっちい現代っ子です。借金だかなんだか知りませんが、オーナーのワガママにいちいちへこみすぎ。どこの勤め人にも、いえ働いてる以上は、クライアントのワガママなんて、思う通りにいかないことや不都合なんて、日常茶飯事です。へこんでる時間なんてありません。次の手を考えて、動かなくてはいけません。狡賢く、自分の思惑を通そうとしなくてはいけません。でもそう気付くためには、ひとに「こうしろ」と言われたんではダメで、現実の出会いと、能動的に「こうしなくちゃ」と思うこと以外にはありません。そうする機会を与えてくれた出会いが、千太郎にとっての徳江さんだったのだと思います。

ラストシーンで、何かを吹っ切るように花見客に呼びかける彼はまさしく、徳江さんの息子であったのでしょう。辛い境遇でも生き抜く強さを、彼はきちんと受け継いだのです。
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