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怒りのRenのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.5
原作既読。超絶大傑作。李相日監督と言えばの人間ドラマ&超豪華俳優陣による演技アンサンブルを最も味わえるのは今作だ。邦画史に残る作品の内の一作と断言できる。原作の良さを完璧に引き出した大成功列の一つとカウントしたい。

全く接点の無さそうな人々の群像劇という意味で、邦画版『バベル』というような色合い。序盤の、次から次へと豪華実力派俳優たちが画面に登場する興奮は筆舌に尽くし難く、滲み出る全キャストとスタッフの熱量にまず震える。

この映画には親子の絆の話もあるし、子を思う親心の話もあるし、恋人(今作はたまたま同性愛)の距離感の話もあるし、子どもと大人の信頼関係の話もある。とにかく劇映画として乗っかっている要素の数が桁違いなのだけど、そのどれもが薄くならずに血の通った人生の一部として堂々と描写されている辺り、脚本と演出と演技(もちろん原作の功績でもある)の全てを絶賛する他ない。

愛する人は殺人犯なのか?
物語が進むに比例して「この人は無実であってくれ!」の願望は大きくなるけど、映画が終末へ向かうにつれ「他者を信じることの尊さ/美しさ」が「自分の知っている情報(顔、生い立ち、性格 等)を元に他者を信じることの脆さ/危うさ」変貌し打ち拉がれる。
なぜ信じてあげられなかったのか、逆になぜ信じてしまったのか、あらゆる人間関係に揺さぶられ続けた。
自分が生きていくにおいて避けては通れない、「家族・友人・同僚・恋人などの人間関係=その人のことを信じられるのか?ということ」について、ここまで真っ直ぐに鋭く斬りかかる作品には中々お目にかかれない。人生で一度は観たい映画。

他者を信じられなかった自分への、そして自分を裏切った他者への「怒り」が重なるラスト、そのままタイトルが出てエンドロール。完璧な流れ。悲しみ、苦しみ、絶望、希望、あらゆる人物のあらゆる感情がオセロのようにパタパタと変化しながら、物語としてはそれらが「怒り」に集約されていく。でもその「怒り」は単線的なものではなく、もちろんその先にある感情は各人で異なる辺りも群像劇として超高性能。

その他、
○ 有名俳優のスタームービーになっておらず、全員が物語に馴染むことに注力していた。故に「この役めっちゃハマり役だね」というより、「演技上手いね」という評価になる。
○ 中でも助演でインパクトを掻っ攫っていく宮崎あおいが素晴らしく、その存在感は『バベル』の菊地凛子と重なった。言葉は選ぶが、彼女のベストアクトだと思います。
○ なぜかジャケットに載っていないが、佐久本宝が劇映画初出演とは思えない好演。沖縄パートの最重要人物として、森山未來としっかり対峙していた。
○ 最優秀助演男優賞を受賞したのは、森山未來ではなく妻夫木聡。驚きではあるけど分かる。
○ 指名手配写真が、というか物語自体が市橋容疑者のあれすぎる。あの事件当時はまだ小学生だったけど、鮮明に刷り込まれた彼の顔面がフラッシュバックした。
○ シーンが切り替わる際に、台詞だけがシーンを跨いで発せられる編集の多用。一見バラバラな群像劇が根底で繋がっていることを観客の意識下に植え付ける。
○ 中盤のレイプシーンは、数多ある映画の中でも特に心を抉られる(もちろん、性暴力をインパクトの有無で語ること自体が愚劣であることは承知の上。映画の演出方法としてのみの話)。叫び声と虚脱感、絶対に抗えない米兵との肉体的な力関係、何もできない第三者目線、全ての要素が重なって もうやめてくれと願っていた。このシーンは閲覧注意。
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