あまね

シン・ゴジラのあまねのネタバレレビュー・内容・結末

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

怪獣とヒーローが戦う映画、ではない。
怪獣にひたすらパニックする映画、でもない。
そもそも、ここに出てくる『ゴジラ』は単なる怪獣なのかーーいや、違うと思う。
怪獣の形で表現されたあらゆる《厄災》ではないだろうか。

スクラップ&ビルド。
太古の昔から、この国は数多くの災害に蹂躙され、そのたびに立ち上がってきた。その戦いは、きっとこんな風だったのではないかなと、感じずにはいられなかった。
舞台を古代に、ゴジラをヤマタノオロチに置き換えても、きっとイケると思う!

未曽有の大災害、巨大怪獣ゴジラの襲撃を受け、壊滅状態に陥った首都・東京。ビル群をなぎ倒し、自衛隊機をものともしないその雄姿は、往年のゴジラと同じもの。
この映画では、特撮映画の定番ともいえるこの演出を、《危機に対応する政府》の側から描いている。
どの様に情報が伝達され、どの様に人が集められ、どのように意思決定されーーと、パニック映画よりもむしろ政治ドラマを観るかのようだ。
様々な人たちの思惑がぶつかり合った後、ようやく自衛隊が出動してゴジラに攻撃。おなじみの場面を目にした時は、「ああ、あの画面の裏側にはこんなに大変な事情があるんだな……」と妙に感慨深くなってしまった(笑)。

冒頭からしばらくは、政府の様子は時にシニカル、時にコミカルに描かれ、現行制度の下で『想定外』の事態に対応することが如何に難しいかが伝わってきた。
なるほど、そういう風味の映画なのかと思ったところで、しかし風向きが変わる。
確かに色々まどろっこしいのだが、批判モノにありがちな閉塞感がないのだ。
組織という枠の中でぎこちなく動く登場人物たちは、次第に枠の中で力いっぱい動き回るようになる。
制度が変だの、組織が煩わしいだの斜に構えて見ていたこちらが思わず恥ずかしくなるほど、同じ枠組みの中でも「人」が変わることで、事態が変わっていくのだ。

熱い。これは熱い。
超人的なヒーローが圧倒的カリスマを見せつけるのではなく、全力で働く普通の人たちが死力を尽くして《厄災》を迎え撃つのだ。
え? 主人公は政府の要人だから、普通の人じゃない? 確かにそうかもしれない。でも、それだってせいぜい肩書と偏差値と親のコネくらいだよね?
それに、彼ひとりでどうこうできるわけじゃない。
名前も出てこないような数多くの人たちが、皆で災厄に立ち向かって初めてゴジラを沈黙させられた。
サブタイトルは《はたらくおじさん、はたらくおばさん》でいいと思うよ、ホント!

冒頭に書いたことに戻るが、日本は古来より多くの災害があり、自然と共に生きてきた国だ。
ゴジラを《荒ぶる神》と呼び、一致団結して戦う様は、大きな脅威に蹂躙されながらも常に立ち向かい、生きる場所を守り、共存してきたこの国ならではの戦い方なのかなと思った。

映像面では、ゴジラの攻撃が圧倒的で、これはもうスクリーンで見たかった。すごい。不謹慎だけど綺麗。圧倒的。さすが庵野監督、これはもう火の七日間だよ! ゴジラが攻撃するたびに、『ビーム!』と心の中で叫んでいた。

それと、パニック映画にありがちな、やたらとあちこちで人が死んで凄惨なことになってる場面とか、引き裂かれる親子のお涙頂戴みたいな場面がなくて良かった。
そのくせ、犠牲は半端じゃないことが分かる演出が随所に入っていて、ハッとさせられる。グロやバイオレンスに走ってない分、こうした演出が胸に刺さって痛かった。

クライマックスは、とにかく如何にも日本的。
皆まで言うネタバレは無粋の極みなのでお口ミッフィーするが、胸が躍ったし、なるほどと膝を打った。
音楽が昭和テイストなのもまた嬉しい。制作側のゴジラへの愛とリスペクトが感じられた演出だった。

この映画は、怪獣映画というよりも、《厄災》と戦う人たちの物語。
でも怪獣もカッコいい。
何もかもが好みど真ん中で、テンションの上がる映画だった。
あまね

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