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懲罰大陸★USAの消費者のネタバレレビュー・内容・結末

懲罰大陸★USA(1971年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

・あらすじ
舞台はベトナム戦争下のアメリカ
戦争賛美や貧困層の多さとそれに対する無策、残り続ける人種差別などを良しとする体制に憤る若い活動家達を破壊分子として理不尽に拘束し、罪をでっち上げてでも厳罰に処す事を奨励する法が存在した
そうした権力の蛮行の餌食となった者達は形だけの裁判にかけられるが本人達だけでなく弁護人も含めて主張は聞き入れられず人格まで否定され、刑罰を受けるか懲罰公園と呼ばれる地でゲームに参加するかを選ばされる
そのゲームとは砂漠地帯で水も無しで3日以内に星条旗の立てられたゴールに辿り着ければ許される、という物
しかしただゴールへと進むのではなく予備兵や警官達で構成された追跡隊から逃げ切らなければいけない…
権力の生み出したそれら2つの歪な現場をテレビ局の撮影班が密着取材した
という設定のモキュメンタリー作品

・鑑賞理由
ベトナム戦争当時を舞台に活動家達が理不尽な仕打ちを受ける、という設定と懲罰を軸とした物語という事に興味を持って鑑賞

・感想
大前提としてこの作品はモキュメンタリーなので現実にこんな事は起きていないというのは百も承知だけど現実世界で権力者達と彼らの構築する体制が反逆者や邪魔者に対して行う仕打ちと本質的にはそう違いが無い、というのがまず恐ろしい
分かりやすい今なお続いている例で言えばPolice Brutalityと呼ばれる白人主体の警官達による理不尽な黒人達への暴力やそれとも繋がる白人か否かで同じ罪状でも処罰が変わるという法的機関にまで根付いた腐敗などがある
日本でも去年、沖縄でバイクに乗っていた無抵抗の少年を警官が警棒で激しく殴打し、眼球を破裂させた事件があった

懲罰公園の描写が現実の暴力的な権力をかなり誇張した物だからことアメリカ現地をさほど知らない日本人としては完全なフィクションとして見てしまいかねないけど、法廷のパートに関しては現実とそこまで差が無さそうな感じがした
どれだけ正当に平和や公平、公正を求める主張をしても聞き入れず無視され続けるから権力者達を動かす為に時には暴力的な活動に走る事を余儀なくされる、というのが活動家達の主張であり立場でこれは現実の暴動の発端と照らし合わせてもほぼ違いが無い
そんな対応を続けるからこそ法廷で被告人とされた活動家達に議員達は罵声を浴びせられ強く批判されるのに、その口汚さを理由に更に彼らへの人格否定にまで走る様子はかつてヒップホップやロックのミュージシャン達が受けた表現規制のそれに近い物を感じる

そして作品の基盤でもある懲罰公園について
砂漠地帯で水も持たされずに80km以上もの長距離を歩いてゴールの星条旗を目指す、という成功させる気が全く感じられないゲームを銃を装備し時には違反行為をでっち上げて暴力や銃撃まで行う追跡隊に追われながらやり抜け
そんな事を強要される本当に理不尽としか言いようがないルール
その上、ゴールまで辿り着いた人々も警告を聞かず近付いてきたなどと難癖を付けて銃殺されてしまう、という地獄としか言いようのない設定は確かに非現実的に思える
でも改めて考えてみて欲しい
アフリカから奴隷とする為に拉致されてアメリカにやってきた黒人達
彼ら彼女らが裕福になるなど至難の業で当然の如く貧困層として生きる事を余儀なくされている人々は今も少なくない
そんな貧困層の黒人達はゲットーで生きるしか選択肢がなく、ゲットーで生き残り成功者となるには犯罪の道が一番の近道だ
彼らが犯罪者であるのは確かだ
けどそうせざるを得ない状況に追い込んだのは誰か?
それは白人達だ
つまり彼らの犯罪のきっかけを生み出した当事者の血を引く人々がその犯罪を差別を正当化する根拠としている
しかも仮に運良く中流かそれ以上の家庭に生まれても肌の色で差別を受ける事実は変わらない
この構図の歪さは懲罰公園のそれと本質的にはそう違いが無いんじゃないか?
そう感じざるを得ない

そして物語の終幕後、ロビンズを演じた役者が爆撃を謀ったという嫌疑を掛けられ警官への暴行容疑でも起訴されたという情報が流れる
ここまで作品を観てきたらこう思う人は多いはずだ
爆撃を謀った、という容疑はちゃんと証拠があって掛けられた物なのか?
警官への暴行というが無理に拘束しようとされた事への抵抗だったのでは?
そんな疑念がどうしても拭い去れない

一見ぶっ飛んだ世界観の様でありながら風刺というほど現実とかけ離れてるかが微妙なほどアメリカを代表とした国家や政府、権力者、法といった物が孕む問題を提起した勇気ある作品だったと思う

映画として観るとほぼ同じ様な事が起き続けているので冗長な印象を受けてしまうけど、それもまたどれだけ正当な主張を続けても無視や圧力に争うべく暴力的な活動を選んでも結果は変わらず、ずっと同じ事が起こり続けているという事を示唆する物だとしたらそれは十分に伝わってきたし悪い事ではないと思う

・総括
ロシアのウクライナ侵攻を発端とした現在進行形の戦争の報道が日々流れているタイミングで観た事もあって改めて色んな事を考えさせられた
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