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恋人たちのkunicoのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
3.4
まず、橋口作品が持つフィクションにもノンフィクションにも片寄らないような作風が好き。

言わば彼が撮るものは空気であり、そこで生きる人々の姿を真っ直ぐに捉えているようにも感じる。

だからこそ胸に迫るものがある。
それは役者さんの演技然り、橋口監督は私たちが共感できる現実と、想像できる世界のギリギリのラインをとても丁寧になぞっている。

例えば、私は結婚しているわけでもなく旦那を通り魔に殺されたわけでもない。同性愛者であり長年友人に恋心を抱いてもなく、もちろん嫁姑問題で頭を悩ませたことも無い。
人生経験が浅いと言われればそれまでだけど、今の私は要するに平々凡々だ。
そんな私が自分の味わったことの無い苦悩をこの映画を通して知る。
共感できるものはまだ少ない。
だけど、この世の中に確実に存在する痛みだ。

もがいている内にどんどんと首が絞まっていく主人公たち。
自分で締めてるわけじゃない。
ふとした時や予想していなかった瞬間にグッと息が苦しくなる。
私が彼らを助けてあげられる訳もなく、ひたすらそれぞれが戸惑いながら傷ついていく姿を見つめるだけだ。
そんな観客のやるせなさを一気に吹っ飛ばしてくれるのが黒田さん。
言葉少なく、じっと隣にいて、ご飯を食べよう、沢山笑おうとポソリポソリと呟いていく。
人に寄り添うってこういうことなのかな、と黒田さんの包容力に胸打たれながら強く感じました。
傷つく人の側に、それぞれの黒田さんがいればいいなと純粋に思う。
まだ主人公たちと同じ境遇にあっていない私は、せめて黒田さんの様な穏やかに周りも自分も見つめられる人間になりたいと思った。

橋口映画の音楽はやはりどこまでも愛おしい。
この作品のラストに静かな希望を感じるのは、最後のショットに加えお粥の様な優しい音楽があるからだと私は信じています!
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