ヨシイコウタ

独裁者と小さな孫のヨシイコウタのレビュー・感想・評価

独裁者と小さな孫(2014年製作の映画)
3.9
おとといくらいに観に行くと決めて、予定通り観てきました。12:20〜の回で、まわりは年配の方が多かったように思います。

名もなき国での物語というのは、どんな国でも起こりうることを暗示しているように思います。それは人が国を作るからに他なりません。何にもなかったところに、ある日自然に出来上がった国などどこにもありません。人手無しにどこからか自然に打ち上がり花開く花火がないのと同じです。どんな国も人の手で地道に作り上げられていきます。その途上にある国、つまりはすべての国に当てはまる物語なんだなと思いました。

まず印象的だったのは独裁者の老人が、プライドが非常に高く、自分の持つ絶対的権力を信じて疑わず、綺麗な制服を意地でも身に纏い……みたいな、今までそういう人に対して漠然と持っていた観念とあまり重ならなかったということです。突如として追われる身になったときも、もちろん内面での混乱や葛藤はあったと思いますが、かなりスムーズに状況に適応していくし、隣で大統領に対する非難や憎悪を吐き出されてもほとんど感情的にならない。そんなことよりも、とにかく生きようとするのです。かつての自分と正反対の惨めな身なりになろうと、なんとか生き延びようとする。そこに、あらゆる人々に通ずるものを見ました。彼は鬼などではなく、そこらへんのおじいちゃんたちと同じ、孫を心底愛するただの老人でした。

また、象徴の如くたった一人登場する髭面の男の言葉と、それに対する人々の反応が非常に胸に刺さりました。人は考えることができるから尊いとも言えるのに、それを放り出させる憎悪の恐ろしさを感じました。

観客を登場人物へ感情移入させるのがとても上手な映画で、繊細な人の心の動きに絶えず振り回されるのでかなり見応えがあります。すごく重い内容でしたが、観ることができて良かったです。