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遥か群衆を離れてのemilyのレビュー・感想・評価

遥か群衆を離れて(2015年製作の映画)
4.0
19世紀英国、おじの農場を受け継ぎ、バスシーバは農場の経営することになる。そこに現れるのは、村を離れる前に求婚され、自身の農場を失って一文無しになってしまったゲイブリエル、二人目の求婚者で、隣人で地主のボールドウッド、そうして彼女自身結婚はしないといっていたが、恋に落ち結婚に至るトロイ軍曹。3人の男たちの求婚と壮大な農場を背景に、真実の愛にたどり着く。

 トマス・ハーディーが 1874年に発表した同名小説の映画化。1967年にはトマス・ハーディー監督、ジュリー・クリスティ主演で映画化されている。

 黄金色に輝く広大な大地と、羊達の群れ、美しい夕日がバスシーバの華やかかつ日常的な衣装と、穏やかな時間が濃厚なラブストーリーに寄り添い、ロマンティックな音楽で包み込む。逆転してしまう社会地位、それでもなお隣で見守り続け、いろいろアドバイスをくれるゲイブリエルの献身的な見守りに徹する態度が美しい。ゲイブリエル、そうして随分年上だが頼りがいがあり、心があるボールドウッド。二人からの求婚を断り、女が選ぶのはだらしないが男として魅力的なトロイ軍曹だった。

 彼女自身にも少なからずとも思わせぶりな態度をしてしまった責任がある、なかなか罪づくりな女性である。当然二人とも彼女を責めたりしない。しかし恋に落ちるときはいつだって”安定”ではなく、心が浮かれるドキドキ感と並行する。それでもなお彼女の傍で見守り続ける二人。強さの挟間からこぼれる女性の弱さが男どもを翻弄し、その天然な女の狡さが男の人生を狂わす。切なすぎるが、彼女がその一番近くの大事な人に気づくのは、すべてを失ってからである。

 日常を描写するように旅立ちの日の白と黒の鳩や虫たち、日常の畑仕事の労働者たちの描写が印象的だ。その描写にはしっかり意味があり、ラストへつながっていく。

 二人で馬に乗るシーンからの畳みかけが非常にきらびやかで美しい。当然そうなるであろうと思われる結末に収まっていくのだが、それでも二人の間に降り注ぐ煌びやかな朝日は涙腺を刺激する。そうして新しい一日が始まる。昨日までとは違う一日が。いつでも自分にないものに惹かれてしまうが、いつだって一番大切な人は傍にいる。
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