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リプライズのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

リプライズ(2006年製作の映画)
4.5
「わたしは最悪。」、「オスロ、8月31日」と並ぶオスロ三部作の第一作目が本作。この三部作は一貫して経済的に豊かでリベラルな環境で育った現代の若者が抱える深刻なメンタルヘルスの問題を描いているとされています。個人的にはどハマリした「わたしは最悪。」が共感できないというレビューが多く少し驚いたのですが、三作比較してその理由がぼんやりみえてきたのは後程記載を。ちなみに全作アンデルシュ・ダニエルセン・リーがメインキャストです。製作年逆順のレビューですんません。

フィリップとエリックは子供のころから大の仲良し。ともに同じ有名作家に憧れて小説を書き、原稿をせいので同時にポストに投函します。フィリップの原稿は出版され成功を収めますが、エリックの原稿は出版に至らず。ところがその6か月後、エリックは自殺を図ったフィリップを精神病院に迎えに行くことになります...というところからストーリーは展開。「オスロ、8月31日」ほどは暗くなく、「わたしは最悪。」ほどは明るくなく、個人的にはこれくらいの感じが好き。

二人とも作家という職業にそこそこ向いているものの特別な才能はなく(ほとんどの人はそうですよね...)最適な選択肢ではないし、選んだ女性もそこそこ気が合っているものの理想的な運命の人でもない。一世代昔であれば「世間体が」、「お金の問題で」、「家柄が」、「結婚・就職は○○歳までに」、「親がうるさいから」などいくらでも"そこそこ"で自分を納得させる理由があったのに、気の毒なことにこの現代の若者たちは経済的にも余裕があり社会もリベラル、親も優しく全てに支持的で、妥協する理由を一切与えられていない。だからといって無限の選択肢から最適を見つけるなど現実には不可能だ。

彼らに与えられた道は、これが最適だと無理矢理自分をごまかし突き進むか、最適を求め彷徨い幻滅して堕ちていくといういずれにしても精神衛生上きわめて不健全なもので、なんとも恐ろしい。いや、もう一つ。ファンタジーの世界に生きる。これが、この映画の終盤の描き方によく反映されています。

本作と「オスロ、8月31日」では、メンタルヘルスの問題が映画冒頭に自殺未遂という形ではっきり提示されるのに対して、コメディ色が強い「わたしは最悪。」ではユリアの自己肯定感の低さ・自己嫌悪という形でややマイルドに描かれる。その心の内の深刻度を表しているのが"The Worst Person in the World (世界で最も悪い人間)"という英題(原題の直訳)。これが邦題でさらにマイルドなニュアンスになっていることが、ユリアの苦しみが伝わりにくい要因その一か。

もう一つは主人公の性別。本作と「オスロ、8月31日」は男性、「わたしは最悪。」は女性が主人公です。3部作ともに比較的男女をステレオタイプ的に描いていて、男性は繊細で傷つきやすく過去を引きずり、女性は精神的に強くというか図太く割とサバサバ次へ進む。描かれるテーマは同じにも関わらず当然映画の主人公としては前者が同情を引きやすく、後者が自分勝手でわがままな悪者にみえる。

いずれにしても三部作全て刺激的な演出にオシャレな画面、文句のつけようのないストーリー展開で良作。今後どんな作品が作られるのか本当に楽しみです。

三部作主人公を一言比較
リプライズ:作家志望で奮闘も思い通りにならず次の一歩が混迷極める23歳の青年
オスロ、8月31日:金持ち家庭で育ち薬物依存症を克服するも人生に絶望する35歳の男性
わたしは最悪。:何でも上手くいくが自信が持てずにふらつき後悔する30歳の女性
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