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海賊じいちゃんの贈りもののしゃにむのレビュー・感想・評価

海賊じいちゃんの贈りもの(2014年製作の映画)
4.5
「どうしようもない家族でも愛している。人間多少バカなものなんだ」

↓あらすじ
スコットランドに住む病気で老い先短い祖父の誕生日パーティに向かう次男夫婦。三人の幼い子供たちですら察するほど夫婦は不仲で別居生活を送っている。別居の事実を祖父に知られると病気が悪化する可能性があるので祖父の前では仲良く振る舞う。両親の嘘にウンザリする子供たちは祖父に連れられ海を見に行く。子供たちは祖父に悩みを打ち明け祖父は家族はウンザリ葬式はバイキング式にしてほしいと遺言を託し静かに永眠。頼りない大人たちにウンザリする子供たちはイカダを作り祖父を燃やし海へ送る。事態を知った大人たちは「孫たちが祖父を燃やす」というセンセーションな事件になり、子供たちを引き取ろうとする児童福祉局や事件を書き立てるマスコミが押し寄せ、さあ大変…

・感想
子供は容赦なく核心を突く。大人はどうして仲良くしないのか。子供には仲良くしなさいと口うるさく言うくせに大人たちはいがみ合っている。その通り。ぐうの音も出ない。人間はバカな生き物なのだ。家族でも無駄な争いをする。他人ならますますひどい。大人になると体面だとか責任だとか面倒臭いものを背負い込んでしまう。もちろん仲良くしたいと思う気持ちはあるにはある。だけど他のことに気を取られて忘れてしまうのだ。子供の何気ないグサッと来る一言に我に帰る。海賊じいちゃんは孫たちの良き理解者。人生の冬に差し掛かると人間というものを嫌というほど見て目が肥える。不思議なことに一周回って子供たちの視点に戻ってくる。大人はバカな生き物だ。家族は選べない。どうしようもない人間でも血縁は切っても切れない。愛情の鎖も憎しみの鎖も見えなくても離れていても家族を繋いでいる。こうあるべき家族像なんて気にしなくても何とかなる。不思議なことに自分勝手で別方向を向いていても家族という存在は案外たくましいものだ。間違いだらけの家族が祖父の死をきっかけにズレを修正して家族を守るありふれた風景を描く。自分の家のトラブルは何でもないのに他人の家になると大袈裟に見える。縁は不思議。

・ポンコツ上等
妻は不倫をしながら弁護士を使って離婚後の処理を身勝手に進める。夫は長女が夫婦の家庭崩壊の記録のメモに怯えている。夫婦は祖父の前だけは夫婦らしくいい顔をして乗り切りたいと焦っている。子供たちに誤魔化そうと苦心しても全て筒抜けだ。子供は親の不審な動きに敏感。隠し通せるわけがない。幼い子供に見切られる情けないこと。一番状況を深刻に受け止める長女の心中は切ない。どうせ離婚して離れ離れになる。親が必要な時期の子供には一大事だ。相談を受ける祖父も長女と同じくらい辛い思いをしている。たくさん心を痛めて育てた我が子がとんでもない過ちを犯したせいで無垢で可愛い孫たちに辛い思いをさせている。大人たちは仲良く出来ないのかしら。孫たちの言葉が突き刺さる。祖父も常日頃そう感じているから余計に孫たちの言葉が痛い。まだ大人の醜さを知らなくていい真っ白な子達に教えることではない。今は大人達に失望しないでほしい、今すぐ分からなくてもいい、将来そんな風に思う時期が来る、その時に祖父の言葉を思い出して、そんな大人にならないでほしい、祖父の遺言は孫たちへの贈りもの。家族は選べない。だらしなくても情けなくても家族だ。憎しみも愛おしさも家族を繋げる。人間は大人は多少バカなのだ。家族が過ちを犯しながら家族を守り続けて行く。その営みの繰り返し。理想型にこだわる必要はない。多少無理があっても修正してなんとか生きて行く。家族の縁を信頼していい。ポンコツで上等じゃないか。
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