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リリーのすべてのよーだ育休準備中のレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
3.5
1926年のコペンハーゲン。才能溢れる若き風景画家は、同じく画家である妻から〝ダンサーの脚のモデル〟を頼まれる。最初は悪ふざけだったはずの女装が次第にエスカレートし、彼の性自認を揺るがしていく。

世界初の性転換手術(MTF)に踏み切った男性と、最後まで彼を支えた妻の実話を基にした物語。


◆主演の二人が魅せる世界

デンマークの将来有望な画家Einar Wegenerと、幼少期の頃から彼の心の中に居たことが示唆されている女性としての人格Lili ElbeをEddie Redmayneが好演。

戸惑った様子。抑え切れない様子。妻に気付かれたこと。妻の想いに応えられないこと。かつての想い人との再開に戸惑い、遂に女性として在る事を決意するまで。彼・彼女の心が葛藤して爆発する様が繊細に表現されていたと思います。《心の性と体の性が乖離していく様子》は本当にこんな感じなんだろうなって。パリのストリップ劇場へ足を運んだ目的が《女性らしい動きを知る為》と言うのもかなり衝撃的でした。

そんな彼を支えた妻Gerdaを演じたAlicia Vikanderも、夫の変化に戸惑い、悲しみながらもその全てを肯定した女性を熱演していました。男女間の愛情と、個人への信愛の情が微妙な間隔で揺れ動いているような、言葉では言い表せない(語彙力)微妙なニュアンスが伝わります。それだけに、ラストの《ダブルベッドの間仕切り》は切なすぎる。


◆どんより曇った心象世界

1920年代中期。性的マイノリティへの理解が乏しい社会で、〝精神疾患だ!〟と切り捨てられる様はいたたまれませんでした。〝万能の治療法〟などと無駄に放射線を浴びせられて、妻のために男性に戻ろうと葛藤しているEinarに追い討ちをかけている様にしか見えません。

そんな不寛容に近い世の中で、EinarとLiliの事を〝理解してくれた〟一途で強い配偶者と、〝理解のある〟性別適合手術を勧めてくれた医師との出会いは奇跡的だった様に映ります。

Einarが描く沼地の風景画の様に全編を通して薄曇りの印象が強かった。Liliの心象風景を投影しているよつでしたが、彼女の人生はそこまで悲惨なものでは無かった様に感じました。このどんより沈んだ印象はやっぱりGerdaの心象も反映しているのかなぁと考えてしまった方が辛い。

社交的で、一途で、努力家で、茶目っ気のある姉さん女房の様な女性。凄くいいなと思ったので余計に切なかった。A.Vikanderの美しさが助長しているといえばその通りなんですが。