emily

雨にゆれる女のemilyのレビュー・感想・評価

雨にゆれる女(2015年製作の映画)
3.5
 名前を変えて”飯田健次”という別人に成り済まし、人との接触を極力持たず工場と家の往復のみの質素な生活を送っている。ある日同僚の男から女を一晩預かってほしいと頼まれる。彼女もまた心に闇を抱えており、自分のことを話そうとしなかった。お互い惹かれあう中で明らかになっていく二人の繋がりとは・・・

 全編で雨の描写が多く、暗い室内雨による湿度の高さをかんじさせるじっとりと汗がにじむ生活感を感じさせながらも、どこかミステリアスな空気感をまとい女はまるでファンタジーのようなどこか浮き足だっており、異質な雰囲気が物語を引っ張っていく。

 心情は表情でも言葉でもなく、音楽と色彩で綴られる。煮えたぎる思いをあらゆるシーンで赤色をスタイリッシュに活用し、無表情に一気に色をつける。ピーンと張り詰めた空気感を必死で溶かすように降り続く雨、しかし過去を消すことはできない。二人が抱える悲しみは皮肉な形で交わり、愛とは違う共鳴が二人を結びつけるのだ。それは同時に隠し偽ってきた向き合わなくてはいけない過去の罪に男を向かわせる事になる。

 音楽と色彩に加え意味深な焦点のあってない映像は浮遊感を与えながら、それにより逆にリアリティが残酷な形で浮き上ってくるように見える。幸せを掴みかけた時、心と心の隙間を現実という黒い怪物がスーッと入ってくるような感じ。女は天使でも悪魔でもどちらにも転ぶ。結局それは受け取る人間の心に直接問う事になる。

  ラストカットの構図、白む波をぼやけて描写。そこから現実の色彩に一気に切り替わる。ストーリー的にはシンプルであるが、音楽と色彩によるたゆたう世界観はずっと響き渡る波の音のように心にずっしりと根を張る。
emily

emily