開明獣

バリー・シール/アメリカをはめた男の開明獣のレビュー・感想・評価

5.0
いよいよ今週金曜から、この夏最大の楽しみである、ミッション・インポッシブルの最終章の前編が公開される🥳今日から先行フライング上映してるところがあって、驚いたけど、3千円のボッタクリ価格を見て断念、しょんみり😔このインフレ不況の最中に、3千円あったら、神社⛩️に5円玉のお賽銭を600回もいれられるやーん🤨600回、毎回、ムスメちゃんが早く独立しますよーに、って祈ったら効果ありそー🤔

という訳で、トム・狂渦の過去作検証ターイム(大山のぶ代のドラえもん調)ネタバレてんこ盛りなので、これから先は未見の方は侵入禁止どすえー💢ご注意を‼️

⛔️🚫🔞🚯🚭📵

日本での評価は低かったが、本国アメリカでは高評価。それはそうだろう、アメリカの巨悪を鼠のごとき小悪党の視点から描いてみせたのだから。主人公は、新聞記者でも議員でもない。正義の側の人間ではないのだ。しかも、これはトム・狂渦でないと成り立たなかった作品。米国海軍最高のパイロットを輝ける英雄として演じた人間が、民間航空で麻薬を密輸していた操縦士を演じたのだから、効果満点なわけだ。光を演じたからこそ、闇が際立つ。

この企画を映画にするのに狂渦を起用すると決めた監督のダグ・リーマンにも舌を巻くが、そのオファーを受けた狂渦に凄みを感ずる。既に超売れっ子俳優として、山ほどくるオファーの中から選び放題のところを、下手したらイメージダウンになるリスクも顧みずに引き受けたところに圧倒される。開明獣が、もしも狂渦の立ち位置だったら、絶対断ったことだろう。それだけ、狂渦にとってもこれは演じたいと思わせる内容だった訳だ。

民間機の凄腕パイロットだったバリー・シールは、金欲しさに麻薬の密輸に手を染める。それに目をつけたCIAが南米の政治情勢絡みで武器の密輸をさせる。最後には付き合いのあった麻薬組織を裏切らせて、米国の、いや時の米国合衆国の権力者のために働かされた挙句、ゴミのように捨てられて殺されていく。

裏切られたら報復が来るのは当たり前なのに、合衆国政府は庇うどころか、殺されて当然の判決をシールに出す。司法までがグルになって、1人の男を抹殺していくのが恐ろしい。死を覚悟したシールは、これまでの経緯をビデオ📹に残していく。自分の死が他人を巻き込まないように配慮しながら、今日一日をなんとか生き延びていくのはどんな気持ちだろうか?刑務所に入っていれば、まだ国外からの暗殺組織の手からは逃れられたろうが、誰も守ってくれない100時間の社会奉仕は死を宣告されたのと同じだ。家族がいるので、国外逃亡もかなわず、武装することも許されず、毎日モーテルを変えてひたすら死を待つ男を狂渦は見事に演じている。普通だったら気が狂ってもおかしくない中、事の真相をひたすらビデオを収めることで、かろうじて正気を保っているようだ。

最後の記録の中で、麻薬組織の暴露に貢献し、南米での武装組織のためにも尽力した一民間人であるとシールは述べた後に、「このアメリカって国は最高だよ」と精一杯の皮肉を述べる。そうこの邦題は間違っている。"アメリカにはめられた男、バリー・シール"が正しい。

蜥蜴の尻尾のようにシールは切り捨てられ、その後、合衆国政府は新たな武器輸出のネタを作り出す。レーガンや、ブッシュが関与したイラン・コントラ事件へと続いているのだ。そしてそれは別の映画、「ヴァイス」でのチェイニーやブッシュJrへのドロドロの利権絡みの汚職へと綿々と引き継がれていく。本作はアメリカの黒歴史のさいたる部分を痛烈な批判と共に描いている社会派ドラマのであって、決して一人のパイロットの波瀾万丈のピカレスク・ロマンではない。

バリー・シールは確かに悪党だ。だが自分がシールドと同じ立場だったらどうするだろうか?背後にいる本当の悪を動かしている貨幣至上主義の正体とは何か?深掘りすればするほど、アメリカのみならず現代社会の病巣が浮き彫りにされる。

唯一の救いは、シールの死後もシールが贈ってくれたブレスレットを換金せずに身につけて、飲食店での仕事に戻った奥さんの存在か。誰もが見捨てたけれど、いつまでも夫を信じ続け愛し続けた彼女を愚かというのは簡単だが、彼女だけは、金では動かぬ存在であった。

トム・狂渦の野心作として、再評価されてしかるべき作品だと思う。
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