真田ピロシキ

アイヒマン・ショー/歴史を写した男たちの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

4.5
ホロコーストの首謀者アドルフ・アイヒマンの裁判を追うTVジャーナリストを描いたドラマ。犯した罪に対してあまりにも平凡な男であったため「凡庸な悪」と呼ばれるアイヒマン。本作の主人公の一人であるディレクターのレオはアイヒマン引いてはファシズム全体を我々誰しもが抱えている存在という認識でアイヒマンの姿を徹底して捉えようとする。対してプロデューサーのミルトンは裁判全体を映すべきだとして両者は衝突する。どちらかが正しい訳ではない。そこには信念、使命感、矜恃を持つ人達が妥協なくぶつかり合う報道ドラマがある。同時期にガガーリンが宇宙に行き、キューバ危機が迫っている。未来と現在が進行している中で過去に目を向けることに価値はあるのかと揶揄されていた報道は大反響を巻き起こし、自分らが過去を語っても嘘だと言われて沈黙していたホロコースト生存者たちへの励みとなる。痛感するのは過去を次代に伝えることの難しさと伝えることの力。たかだか20年すら経っていなくても努力をしなければ過去は塗りつぶされてしまう。70年も経った今では一層の努力が求められるのは言うまでもない。これに限らず様々なことを忘れず伝えなくてはいけない。その努力が必要とされるのはマスコミだけでなく一般人もだ。

本作は当時の記録映像がかなりの割合で使われていて劇映画の虚像を記録映像の実像が補強する。もしかすると逆で記録映像が主で劇映画が補完しているのかもしれない。そのくらい強制収容所の痛ましい証人の発言や全く表情を動かさないアイヒマンに目を引きつけられる。証拠映像として映された骨と皮だけになった裸のユダヤ人が立たされゴミのように処分される様子には慄くばかり。それを行なったのが命令に従った普通の人間。圧倒的に恐ろしい現実が眼前に広がる。一つだけ気にかかったのは記録映像に音楽を乗せてドキュメンタリー性を弱めたように感じられたこと。こればかりは余計だった。実際に放送されたドキュメンタリーも出来れば見てみたい。