グラッデン

ラ・ラ・ランドのグラッデンのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
5.0
ハリウッドを舞台に、それぞれの夢を追う若い男女の物語。

大変素晴らしかったです。事前に漏れ聞こえてくる感想も踏まえ、相当高めに設定したハードルを軽く超えてくるほどの驚異的な作り込み。本当に最後まで圧倒されておりました。

大きな衝撃を受けながらの鑑賞ではありましたが、自分は以下の3点に注目しておりました。

まず、本作の基本構造である「ミュージカル」と「映画」という異なる2つの興行内容の融合について。個人的に非常に綺麗な足し算になっていたと思います。

ハリウッドを1つの大きなステージに見立てるように歌とダンスが終始展開しながら、神の目=視点となるべきカメラワークの動きも存在感を発揮していたと思います。特に、冒頭の交通渋滞のシーンは、まさに本作の見せ方を象徴するような内容だったと思います。
片方の表現に寄せたり、バランスをとるのではなく、互いの特徴を綺麗に繋げて生み出された充実した仕上がりになっていたと思います。

次に、王道的なアプローチとも言えますが「夢」と「現実」の狭間に揺れ動く若者たちの変化を魅力的に描いていたと思います。
特に、物語の中盤に展開された一人芝居で夢の姿を自力で体現しようとしたミアと、バンドでの現実的な音楽活動に邁進するセブの対称的な描き方は、双方の思いのすれ違い、改めて夢に向かって突き進むための契機となる出来事として重要な役割を果たしていたと思います。
特にライアン・ゴズリング演じるセブは、大好きなジャズのことを語り出すと、熱量高めで早口になる「俺たち」感を醸し出しつつも、静かなる情熱を燃やすピアニストを好演していたと思います。無言であっても、その佇まいだけで説得力抜群の雰囲気は彼ならではの魅力ではないかと。
また、エマ・ストーンについては、ある意味で喜怒哀楽がハッキリとした表情豊かなヒロインの役回りを魅力的に演じるだけでなく、ミュージカル要素のキモと言えるダンスや歌のパフォーマンスも本当に凄かった(特に終盤のソロの歌唱シーンは鳥肌モノでした)。

3つ目は「レトロ」と「現代性」が融合した作品世界のディティール。ミアはプリウスに乗ってロスを移動し、スマホで連絡を取っています。しかし、彼女がバリスタとして働くカフェの周辺にある撮影スタジオ、あるいは彼女が暮らすシェアハウスの趣にはレトロな雰囲気を醸し出していたと思います。現代を舞台にしてようでいて、どこか昔の映画を見ているような珍しい感覚です。しかしながら、ミュージカル映画というジャンルを現代のハリウッドを舞台に落とし込むうえでは非常に良い舞台設定ではないかと。こちらについては、絶妙なバランスの上に成立していたと思います。

以上です。主演の2人のユーティリティの高さが本作のクオリティを担保してるのは一目瞭然ですが、その狂気じみた運用を試みたデミアン・チャゼル監督も本当に凄いと思います。

観客の微笑みではじまり、微笑みで終わる。楽しさだけではなく、少し優しい気持ちになれる映画でした。