グラッデン

ドリー・ベルを覚えているかい?のグラッデンのレビュー・感想・評価

4.0
1995年のカンヌ国際映画祭でパルムドールも受賞した旧ユーゴスラビア出身のエミール・クリストリッツァ監督の上映企画で鑑賞。

本作品は、1981年に手がけた同監督の長編デビュー作。サラエヴォを舞台とする本作は、冷戦末期の東欧諸国の空気感を伝えながら、多感な時期を過ごす少年の繊細な心境の揺らぎを丁寧に描く。様々な感情で胸いっぱいになった。

大人になることとは、人生における視野を広げることだと思う。共産主義における究極の自主管理として催眠術にハマるトンチンカンな主人公、政治談義を家庭に持ち込む酔いどれの父親、恋心を抱く年上の女性...青春映画であり、家族の物語であり、人間讃歌である。忘れられない作品。

余談であるが、公開された1981年と前後してカリスマ的指導者であるチトー終身大統領が亡くなり、後年の監督作『アンダーグラウンド』に描かれるように、ユーゴスラビアは分裂・崩壊する。
分裂の背景にあるのは多民族・多文化の共生の難しさであり、共産主義体制における慢性的な経済的困難であることが本作からも垣間見ることができると思う。