シネマJACKすぎうら

サウルの息子のシネマJACKすぎうらのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
3.8
アウシュビッツ強制収容所の被収容者でありながら、同胞の死に際に絡む様々な”汚れ仕事”を担わされる”ゾンダー・コマンド”の主人公サウル。たまたま作業中に、彼は息子”らしき”少年の遺体を発見するが。。

同じ立場にある仲間たちを、ある時はガス室に誘導し、ある時はその遺体を処理する日々の中で、彼は、おそらく凄まじい”罪悪感”に苛まれ、”贖罪”への切実な願いに心を支配されていたのだろう。自分もいずれは惨殺されるという”恐怖”を上回るほどに。
もはや、その少年の遺体を”人間らしく葬る”ことだけが、彼自身が人間であり続けるための最後の”心の砦”だったに違いない。

物語の設定があまりに酷すぎて、容易に主人公に感情移入できないほど。
まるで彼の背中に乗っかって、この地獄絵のような世界を疑似体験しているような感じ。次第に息が詰まるような、なんとも言い難い気分に陥る。

スタンダードサイズの”横に狭い”画面の中、ほとんどが登場人物のアップ画像のみで構成されているシーン展開。
人物の背景に映っているであろう、夥しい数の遺体は、敢えてピンボケさせてあり、はっきりとは描写されていない。
叫び声や泣き声などの”音”が、観るものに凄惨な状況の想像を促す。

このような特徴的な演出の結果、この映画はR指定を免れている。製作者はこの紛れも無い歴史的事実を世界中の子供たちにも観て欲しいと願っているのではないか。