ryo

ロブスターのryoのネタバレレビュー・内容・結末

ロブスター(2015年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

面白かった。
独身者は連行されて45日以内にパートナーを見つけなければ家畜にされてしまうディストピア(あるいはユートピア)な世界。
主人公がホテルに収容される時、ヘテロかゲイかを問われるが、主人公はバイは無いのかと問う。しかし「制度に問題が発生するので無くなった」と言われる。このことから何か特定の思想や宗教観でこの世界が動いているわけではないことがうかがえる。
主人公が逃げ出した森の中では独身者のレジスタンスがいる。こちらは真逆で、恋愛も禁止され極端すぎる個人主義を強要される。
この世界の登場人物はパートナーと同じ符号・属性を持つことに執着する。
どこまで逃げても人間社会にある「右へならえ」の村社会的『同調』の価値観がついてまわる。夫婦であれ、独りであれ、『括り』の中で皆、同じ方向を向いていなければならない。(帰属そのものが他者の基準ではっきりとしないバイセクシャルは、そのためこの世界では強引に異性愛か同性愛に押し込められる)
そこから脱却するには人間をやめるしかない。「家畜になった方が自由になれる」というアイロニーが浮かび上がってくる。
「人間社会の歯車でないなら、その瞬間から根元的に人間として認知されない」という皮肉はカフカ的だが、カフカの小説のように陰鬱な悪夢世界に見えないのが本作の面白いところだった。
シリアスなシーンでも後ろをパカパカ歩くラクダ。ヨーロッパの森にラクダは生息していないと思うので、ラクダにされた元人間。
観ていると、もう何だか家畜になった方が幸せなんじゃね?という気分になってくる。そう思った時にとてもカッコいいアヴァンタイトル部分が思い出される。
ロバになって悩みなくぼんやり牧歌的に生きていたら、恋人(候補)だったっぽい女性に「人間やめてお前だけ呑気に暮らしてんじゃねーよ!」と言わんばかりに射殺されるっていう…。
最後まで観ると冒頭の憐れで間抜けなロバが自分に見えてくるというとても面白い映画。
ユニーク。好きです。
ryo

ryo