マーチ

ロブスターのマーチのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
4.3
【レビュー】
《魘され続ける118分》

ありとあらゆるアブノーマル映画ジャンルの上澄み液を集めて、濾し出した汁が身体中を上映時間中ずっと回り続けているかの様な不思議な映画体験。

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とにかくずっと毒に侵されているかの様に不穏な気分が付き纏う。

この作品を形容できるジャンルが見当たらない…ブラックコメディ? ブラックラブストーリー? ダークファンタジー? ダークロマンス? ダースベイダー?……どれも微妙にズレている様に思える。それだけ不思議な魅力に取り憑かれた映画であることは間違い無いし、個人的にはそんなタイプの作品が大好きである。

映画が人を選ぶタイプの何とも生意気な作品で、それこそ人によってはスコア1点台にもなり得るし、4点台でも納得出来る。
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ホテル内の主なルールは次の2つ
・45日以内にパートナーを見つけること
・時間切れで自分の望む動物に変えられる

補足情報
・ホテル内はパートナーを見つける場
・独身は犯罪
・森の中には独身で生きる為に身を隠す者たちが集っている
・パートナー候補生たちは森で独身者を1人仕留めるごとにホテル滞在期間が1日延長
・パートナー仮契約中の喧嘩は派遣された子供が仲裁
・パートナーとして認められれば町で暮らせる

森の独身者内ルール
・性行為やキスは禁止
・ルール違反者には厳しい罰が与えられる
・ダンスは独りで踊ること(流す音楽は電子音楽のみ)
・町へ行く時は男女2人1組

などなど、とにかく色々なルールや設定が細かく決められていて、観ている側は順々にそれを知っていく訳だが、世界観が異質なのに何処かリアルで、〈動物に変えられる〉という謎のシュールな設定が相俟って、全体が不穏さを身に纏っているし、「こんな世界が将来、無くはないかな〜」ぐらいに思えるほど正確で緻密に作り込まれた世界観=脚本の素晴らしさには眼を見張るものがある。また、それが世界全体では無く、ある小さな町ぐらいのスケールで描かれているから受け入れ易い。

コリン・ファレルの演技が非常に繊細で、パートナーを見つける為に己を伏せてみたけど全然ダメで寧ろ傷付きっぱなしだし、優しく働きかけたら後々失敗だったと気づいたり、大人しそうに見えて男らしい変態性をしっかりと持ち合わせていたり、調子に乗ってその変態性が暴走してしまった後に取り繕うぎこちなさだったりを正確で多様な演技の幅で〔見せる〕というより〔魅せて〕くれるので、驚きました。

オチが少し弱い感じはあったものの、奇妙さと不穏さ漂う中に繰り広げられる恋愛の静かな一進一退と、鋭利な目つきで後半の展開に緊張を齎すレア・セドゥ様のドSな役柄がいい働きをしているおかげで終始ゾクゾクしていた様な気がします。

【p.s.】
鑑賞後に「気持ち悪っ!!」と吐き捨てて、グッと一杯水を飲み干したくなる様な不思議で、そこはかとなくエロティックで、奇怪な作品でした。

レア・セドゥ姐さん今回もいい味出してましたよ〜、特に森の中での薄汚れた顔とか、終始怠惰な表情とか!
あと森の中でのダンスタイムはゾンビがいきなり登場したのかと思って、ビックリしました…踊り方も人それぞれエグみが凄かった。

白目で見られる覚悟で申し上げるとするならば、こういうタイプの作品が好きな性分なので、こういうタイプの作品を受け付けない方は、同じタイプの作品が好きなパートナーを見つけるか、私の権限でロブスターになっていただきます!(この映画を観れば意味がわかります🦐) 笑

【映画情報】
上映時間:118分
2015年 ギリシャ🇬🇷・フランス🇫🇷・イギリス🇬🇧・アイルランド🇮🇪・オランダ🇳🇱/監督・脚本 ヨルゴス・ランティモス/脚本 エフティミス・フィリップ/キャスト コリン・ファレル/レイチェル・ワイズ/ジョン・C・ライリー/ベン・ウィショー/ジェシカ・バーデン/オリヴィア・コールマン/レア・セドゥ/とあるホテルに集められ、45日以内にパートナーを見つけなければ動物にすると言い渡された者たちを待ち受ける運命を描く。
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