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ロブスターのpanpieのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
4.2
「聖なる鹿殺し」の2回目を上映最終日の昨日観に行ってきた。
20:45にしか上映がなかったので初めて最終回の映画館で観たのだけど思っていた以上に人が入っていて夜の鑑賞もなかなか良かった。
癖になりそうだがGWで仕事が休みだから今回は行けたけれどやっぱり無理。
働く曜日が決まっているので行けたとしても次はいつ行けるか分からない。
「鹿」2回目に合わせてAmazonで今作をレンタルした。
何という世界観!
荒唐無稽だが意外にも筋が通っていて不思議な世界観!
またもや音楽が素晴らしい。



伴侶が死亡したり離婚するとある施設へ送られる。
これが任意なのか強制なのか分からないが社会制度となっている様だから強制なのか。
妻から「もう愛してないの」と告白されたデヴィッドはかつて人間だったが今は犬になってしまった兄を連れてそこへ行く。
服も靴も支給されたものに着替え何故かベルトと右手を繋がれる。
初日だけ?
歯を磨くのも食事をするのも不自由なのだがデヴィッドは文句も言わずそれに従う。
与えられた猶予は45日間。
その間に伴侶となる相手を見つけなければならない。
例え狩りで捕獲したとしても数日延長になるだけ。
伴侶を見つけられなければデヴィッドは自ら選んだロブスターになってしまう。


しかしロブスターって。笑
ロブスターになっても食われるだけだと思うけどな。笑笑
私は何だろう?
犬や猫がいいと思っていたが今作を観た後は食われるより食う側つまり捕食者の方がいいと思った。
でも何がいいのだろう。
動物になったら映画は観る事は出来ないのだからやっぱり人間でいたい。
という事は45日間で相手を見つけなければならないのか。


コリン・ファレルが「鹿」の時より恰幅いいと思った。
コリン・ファレルは若い頃に「フォーンブース」でモテそうな兄ちゃんと思っていたがその後彼の出演作は未見で久しぶりに見たらダブついたお腹の中年になっていた!
別人だ!
しかし独特の演技力は昔よりいいなと思う。
一生イケメンの若者ではいられない。
何かを失って何かを得る、みたいな。笑
良く年をとったというか。
ヨルゴス・ランティモス監督とこれからも蜜月を過ごしそうな予感がする。
監督の作風にピッタリくる。

キャストを全くチェックしてなかったのでとても驚いた。
レイチェル・ワイズ、ベン・ウィショー、レア・セドゥ、ジョン・C・ライリー。
支配人の女性も給仕係の女性も感情のない女性も何処かで観た事のある様にも思うのだけど何で観たかは思い出せない。

ベン・ウィショーが演じたジョンが良かった。
変な角刈りの伸びたような髪型が意外にも似合っていた。
狼になった母親に会いに行って柵を乗り越えたって想像したら怖すぎ。
よく足を引きずる程度で済んだなと。
デヴィッドも狙っていた鼻血の出る彼女を凄い手を使ってモノにしたジョン。
目当ての女性を見つけたら猪突猛進する姿が滑稽だけど人間らしい。
対比する様にジョン・C・ライリー演じるロバートの滑舌の悪さと要領の悪さも笑える。

ホテルの支配人の配偶者の歌の上手いこと!
オペラ歌手?
変な歌を支配人と大真面目に歌う。笑

〝狩り〟のシーンはスローモーションで描かれている。
ん?
狙っているのは合羽?ポンチョ?を着た人間だった!
毎日給仕係にしてもらうサービスが何とも中途半端でデヴィッドが思わず「ひどいよ、あんまりだ」と言うのは私は男性じゃないけど気持ちは分かる。
違反をしてマスターベーションをしたらトースターに手を突っ込まれてお仕置きされたりカップルになったらこんないい事ありますみたいな即興劇も奇妙だしこの施設の変な所が徐々に明らかになってくる。
こりゃ何としてもカップルにならないとヤバいなって思わせる。
相手を見つけられないと動物に変えられるって発想が面白い。
「鹿」もかなり妙だけど今作には負ける。
「鹿」はどこか現実味があってそこが空想の話っぽくないオカルト的な怖さがあったけど今作は完全にフィクション。
でも面白くていつもは家で観る時は二日位に分けて見る事が多いけどもう一気見だった。



↓ここからネタバレあります。↓




これから先の展開も予想が付かず驚く展開が待っていた。

あの感情のない女とデヴィッドがカップルになるなんて動物に変えられない為にとは言え何でまた彼女なの?
兄が〜!(;_;)
ビスケット好きな女性もエキセントリックだったけど彼女を選んでいたら兄は殺されずに済んだのに。
デヴィッドはあの女を一体何に変えたんだろう?
虫?
変えた途端に踏み潰すとか?
犬?
兄と同じ犬に変えて同じように蹴り殺すとか?
私の空想は膨らむ。


ナレーターがレイチェル・ワイズだった事を後半で知る。
上映されていた当時「観なくていいか」とスルーした自分を思い出してとても悔しい。


しかしレア・セドゥ演じるシングルのリーダーはレイチェル・ワイズ演じる近視の女性を盲目にさせるなんて何故あんな事をしたのか?
どちらかを愛していたのかなと思ってみたが嫉妬から来る制裁ではなかったと思う。
グループの秩序を乱したと言う理由からかな。
落としたノートがデヴィッドのものと感ずいたのかも。
デヴィッドと二人で考えたサインは意外とリーダーには筒抜けだったのかもしれない。
これから二人が逃げ出す事が分かっていたのかもしれない。
ぶっきらぼうな言葉で話すレア・セドゥが美しくて恐ろしい。
デヴィッドに墓を掘らせ死をちらつかせて怖がらせれば十分と思ったのだろう。
でも愛する女性に酷い仕打ちをしたリーダーへのデヴィッドの復讐は用意周到で上を行く恐ろしさだった。
手足を縛られ叫べない様に猿ぐつわをされ自由を奪われて気が付くと日が落ちていて狼?犬?が墓穴に横たわるリーダーに群れていくシーンは本当に怖かった。
恐ろしいシーンに流れる美しい音楽の使い方が素晴らしい。
あの後シングル達はどうなったのかな。
リーダー不在で解散したかグループは秩序を失って何れにしても皆バラバラでただ逃げる事しか出来なくなっただろうな。


折角人生の伴侶を見つけたと言うのに可哀想すぎる。
逃げ出した施設とシングルのグループの暮らしは制約だらけで根本的には何ら変わらなかったなんて。
ラストは切なさが募った。
カップルの条件は〝自分と同じ〟だったか?
彼女の目が見えなくなったのならデヴィッドが彼女の分まで目になってあげないといけなかったのに。
彼女に相応になる為の行為を観せずに映画は終わる。
また私達に想像させてブツっと終わるのだ。
途中でデヴィッドは盲目になった彼女を捨てて一人で逃げるのだと思っていた。
まさかこんな結末になるなんて。


ランティモス監督は凄いな。
何でこんな事を思いつくんだろう。
でもやっぱり「鹿」は超えられなかったな。
2度目を観てストーリーも分かっているのにいちいち釘付けだった。
〝ロブスター〟からの〝鹿〟、〝鹿〟の次は一体何が来るのだろう。
いつもレンタル中で「籠の中の乙女」は未だ観ていないのだけどもう完璧にランティモス監督のファンになった。
次作が今から待ち遠しい。
彼の予想も付かない奇抜で独特のアイディアに期待している。
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