とらキチ

人生タクシーのとらキチのレビュー・感想・評価

人生タクシー(2015年製作の映画)
4.5
当局より「20年間の映画製作の禁止」を命じられたジャファル・パナヒ監督が、“タクシー運転手”となり、彼とタクシーに乗り込んでくる客たちとの対話などを、車内のカメラで撮った作品。コレは“たまたまカメラに映っただけのものであり、「映画」ではないから、逮捕されることはない”という理屈で製作された。
過去のいろんな映画作品で用いられ、名作が生み出されていることからわかるように、“タクシー”という舞台装置が絶妙。“公”と“個の密室空間”のボーダーラインであるタクシー車内を通じてイラン社会の現実や問題が明らかになってくる。
罪と罰に関する倫理観や国外の文化を締め出そうとする政策、頑なに信じようとする迷信等々、タクシーに乗り込んでくる市井の人々を巧く使った現代イラン社会の不合理の素描が、異国(日本)に住むモノからすると興味深いし考えさせられる。そして“監督の姪っ子”を使って語られる今作の1番のテーマ「俗悪なリアリズム」というものの不条理、馬鹿馬鹿しさ、くだらなさにある意味カルチャーショックを受けてしまった。
終盤、タクシー車内に残される一輪のバラ。コレはパナヒ監督からの“映画”というものへの感謝、愛であると同時に、バラの原産国でもある祖国イランへの想いなのだろう。
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