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この世界の片隅にのMKのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.3
漫画の原作、北川景子主演のスペシャルドラマと観ていたため、内容に新鮮さはなかったけど、原作の世界観そのままに映画版としてうまく拡張されていたという印象。

広島から呉に嫁いだ少女、すずとその身の回りの人たちを通じて戦争を綴った物語。

作者の別の作品、夕凪の街 桜の国と同様に、広島の原爆体験をモチーフにした物語ではあるけれど、原爆や戦争そのものというよりは、その異常な世界にあって平凡、平穏に毎日を生き抜こうとする人々のひた向きな姿が描かれているという感じ。
…それでも力強い反戦の意思はひしひしと伝わってくるけど。

物語中、人びとが様々な感情とともに受け入れているもの、良かった良かったとあきらめているもの。そしてそんなものが崩壊した世界にあっての行き場のない感情。
まさに悲しくてやりきれないような感情に思いを巡らすひと時となった。

敗戦ではなくて終戦。
意図して用いられた言葉というふうに聞いてはいるけど、日本人の感性というのか…
この国の戦争、狂気の原因は不在とされているように感じるし、それを特定の他者に向けさせないような操作が存在することに薄々気づきもするけど、寛容さというのか高潔さというのか…複雑な出来事への距離間を表す言葉のように思えて個人的には好き。

鑑賞中、理由はわからないけど二階堂和美さんの伝える花の歌詞、受けた悲しみは決して返さない、という歌詞を思い出した。

一番好きな橋の上のシーンは想像よりさらっとしていたけど、全体のすずを考えるとあれで良かったようにも思える。

この世界の片隅に私を見つけてくれてありがとう…

自らを中心に据え置くのではなくて、それでいて自らを世界の片隅にまで追いやってしまう控えめでいじらしくも凛とした…美しい日本の女性を形容するような素敵な言葉に思えて仕方なかった。
ぼんやりでも意思の強いすずにのんちゃんは適役だと思った。



何も失くなった
全て消えてしまった
あの日 青空は
どんな顔をしてた

70年は草も木も
生きられぬと言われた
この土にたったひと月で
ほら 花が咲いた

生きる力 流れる川
わたしたちは 生きてる
伝える花 寄り添う花
ほほえみを咲かせて

受けた悲しみは
決して返しはしない
見上げる青空は
今 こんなに晴れてる

いくつもの虹を数えて
わたしたちは今
この土に眠る幾億の
願い つないでゆく

生きる力 流れる川
わたしたちは 生きてる
伝える花 育てる花
ほほえみを咲かせて

生きる力 流れる川
わたしたちは 生きてる
伝える花 寄り添う花
ほほえみを咲かせて
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