ふき

スティーヴン・キング ファミリー・シークレットのふきのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画、「二五年間連れ添った夫が、連続殺人犯だったらどうしますか?」的な宣伝文句のわりに、派手なシーンがない。妻が夫を見つめるシーンしかない。最後に妻が夫を殺すシーンしかない。
当然だ、だってすべて、妻の妄想なのだから。

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割りと早い段階で、「これは夫は犯人じゃない映画だな」と予想が付いた。「実はあの人が犯人だったんだよ!」「な、なんだってー!」という話だろうと。
夫の秘密を妻が見つけるより前に怪しげな人影を登場させたことも、夫の犯行シーンを見せないことも、そう見て欲しい意図の演出だと思った。

それが確信になったのは、最初の夫の告白シーンだ。「玄関にいた夫が、妻より早く寝室で待っている」のをはっきり見せたからだ。その後の夫の襲撃シーンを連続で妄想するのも同様だ。

ピザを挟んで行われた会話も、包丁をベッドサイドに置き忘れたことに激怒している妻を、なんとかなだめようとしているように見えた。二度とやらない、って、妻は殺人のことを想定してても、夫は「包丁を出しっぱなしにしない」のことだと思っただろう。

なので、「夫が殺しを認めた」も、「夫に別人格がいる」も、「子供で妻を脅迫している」も、すべて信じるべきでないと思った。
そう軸を通すと、話は極めてシンプルだ。
なんということはない映画のスプラッターシーンも嫌がる妻。連続殺人犯の被害者写真をひたすら見ていく妻。クルマの下で作業をする夫を殺そうと考える妻。娘が夫に殺されるシーンを想像する妻。夫の出張先で起こった殺人のニュースに「夫が犯人」を確信していく裏で、被害者の身内が犯人かもしれない情報は耳に入っていない妻。
ことあるごとに妻の精神状態は狂っていくのに、夫はなにも気付かないで日常が流れていく。いつ妻は爆発するのか、いつ夫は妻の狂気に気付くのか……。
これが上質なサスペンスでなくて、なんだろうか。

そして後半、妻と話が通じる人物が出てくる。「ボブ」と「ダーシー」の頭文字をとれば、連続殺人犯の名前「ビーディー」になる、と言う男性。完全な妄想だ。
だが妻は、男性の根拠のない妄想に、自分の妄想上の夫の告白を噛み合わせ、妄想をドライブさせていく。
そして病院で、夫を殺した自分を許す。
マジで怖いよ、この女の人……。

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ただ、夫が連続殺人の被害者のIDを持っていた理由や、ピザを挟んだ会話で出た「IDは処分する」の意味を問わなかった件は、いずれも明かされていない。なので、「夫は本当に犯人だった」と思うこともできる。

または、本当は妻が、二重人格の犯人なんじゃないか、とも思えたりね。
猟奇的な人格を抑圧しているから、普段はスプラッターシーンが苦手で、夫殺しを許されたことで人格が統合できた、とかね。
考えすぎかな?
ふき

ふき