keith中村

テレーズ 情欲に溺れてのkeith中村のレビュー・感想・評価

テレーズ 情欲に溺れて(2013年製作の映画)
5.0
 ちょっとびっくりするくらい面白かった。これはマジ拾い物。

 原作は、ゾラの「テレーズ・ラカン」。
 何度となく忠実に映画化されたり翻案されて映画化されてるけど、映画史的に重要なのはマルセル・カルネが1953年に銀獅子賞を獲った「嘆きのテレーズ」でしょうね。
 あれは、製作当時の現代劇に翻案されていたし、後半がだいぶ変更されていて(堕ちてくのは同じだけれど)、ノワール風味たっぷりの作品でした。
 「嘆きのテレーズ」の素晴らしいところは、人物の内面描写がミニマムに抑えられているところ。
 シモーヌ・シニョレ演ずるテレーズは、序盤どんな人か全然わからない。
 ほかの人物も内面がよくわからない。
 だから、こっちが余白をどんどん想像して埋めていくしかない作りになっていて、そこがたいへん素晴らしい。
 また、「犯罪もの」としても、全部は説明しない余白があって、ここがヒッチコックなんかと較べると、いかにもフレンチ・ノワールなテイストで実によろしい。いや、ヒッチおじさんも大好きだけど、どっちもいいって意味でね。
 
 対して本作。
 原作への忠実度はこちらのほうがはるかに高い。
 また、内面描写がものすごく叮嚀で細かい。あ。といっても、セリフで感情をベラベラ喋るような作品ではありません。
 「画」によって、全部語る。これがまことに見事でまことに心地よい。
 監督のチャーリー・ストラットンさんは全然知らない。IMDBによると、テレビ畑のディレクターで俳優もやってる人みたいだけれど、映画のキャリアはほとんどないみたい。でも、脚本・監督を手掛けた本作は見事な傑作だと思いました。
 後半は、怖すぎてずっと引き攣った笑いしか出てこない。
 
 どういう物語かというと、「後に『アベンジャーズ』のワンダ」になるエリザベス・オルセンと「後に『スター・ウォーズ』のポー・ダメロン」となるオスカー・アイザックの二人が、「『ハリー・ポッター』のマルフォイ」であるトム・フェルトンの呪いで自滅していく話。
 その生き地獄に巻き込まれる気の毒なオバサマがジェシカ・ラング。
 このジェシカ・ラングの起用も趣味がいいというか、タチが悪いというか。
 
 だって、ジェシカっつったら、「郵便配達は二度ベルを鳴らす」でしょ?
 これも何度か映画化された作品。ヴィスコンティの処女作だけど、原作者のジェームズ・ケインに無許可で作ったからお蔵入りしたというエピソードもパンチがあるけれど、私の世代で最大級のパンチは、そりゃもう、ボブ・ラフェルソンのバージョンですよ。
 これ、テレビの洋画劇場の「次週の予告」にて例の衝撃的な「テーブルの上でのゴニョニョ」を見た10代の時に、「うひゃ~。めっちゃ観たい! でも、親に隠れてどうやって観る?!」ってなった作品です。
 結局どうしたんだっけ。
 こっそりビデオデッキにタイマー予約しかけて、「見てませんよ~♪」って体で9時からは別のチャンネルを視て、あとでこっそり観たんだっけかな。
 めっちゃどうでもいい話に逸れましたが、つまり「郵便配達は二度ベルを鳴らす」は途中まで「テレーズ・ラカン」とまったく同じ話なんです。
 そっちで、テレーズ役(というか、あれの役名はコーラさん)をやってたのがジェシカ・ラングですわな。
 だから、本作は「若い頃奔放にやってたコーラさんが、息子の嫁に同じことをやられて報いを受ける」キャスティングなわけですよ。
(まあ、コーラさんはあっちの映画でも報いを受けてたので、この人がいちばん気の毒か)
 
 Wikipediaによると、もともと予定されてたグレン・クローズが降板して、お鉢が回ってきたらしい。
 グレン・クローズだったら、同じ不倫もの路線で言うなら「杖で地味に床にメッセージを書く」代わりに「杖でお前ら殴り殺す! ついでにウサギと一緒に鍋で茹でる!」とかしそうで。まあ、それはそれで観てみたいけど(←そんな脚本になってるわけないだろ)、ジェシカさんのキャスティングがかなりツボでしたね。
 
 でもって、「郵便配達~」のジェシカさんばりに体を張ったワンダ様も、本作では素晴らしいですね。
 前半は、画が綺麗でプロダクション・バリューが高い、しっかりした「文芸エロス」路線になってる。
 だからこそ、後半の「ヒトコワ映画」にシフトしていく高低差が、これまた見事なんです。
 
 今回ググりながらこれを書いてたら、パク・チャヌクの「渇き」も「テレーズ・ラカン」オマージュだって言及にいくつもたどり着いた。
 あれ? 「渇き」1回しか観てないから結構忘れてるや。そうだっけ? どっちかっていうと、ヴァンパイアものとしての記憶しかないや。
 よし! じゃ、明日は「渇き」を観返してみよっと!
 
 おっと! パク・チャヌクといえば、スパイク・リーがリメイクした方の「オールド・ボーイ」はエリザベス・オルセン様が出てましたね。ん~、じゃ、「オールド・ボーイ」も観ようかな~。
 
 って、連想を続けてくと。全然レビューが終われないので、本日はここまで!