がんちゃん

スパイダーマン:ホームカミングのがんちゃんのレビュー・感想・評価

4.0
『アイアンマン』を実に上手く利用し、コスプレ少年が真のヒーローとして歩み始めるまでを軽快に描いた『スパイダーマン』再リブート1作目としてとても良いスタートだと思う。

■2種類のスーパーヒーロー■
スーパーヒーローは「超人系」または「ガジェット系」の2種類に分かれる。
肉体的特殊能力を持った「超人系」はスーパーマンやX-MENが有名。生身でメチャ強い反面、周囲との違いから孤独に苛まれる傾向あり。
一方、強力な武器や便利なアイテムを駆使する「ガジェット系」にはバットマンやアイアンマンが該当する。彼らには必ずといっていいほど「スーツが無ければ何もできないんでしょ」という批判がつきまとうので、これも必ずだがシリーズのどこかで己の肉体と精神と知恵だけで強さを証明する「生身回」が用意される。トニー・スタークが自身の過去と向き合い、真にヒーローとして成長する姿を丁寧に描いた『アイアンマン3』は傑作だった。一躍時の人となったロバート・ダウニー・Jrもまたドラッグに溺れていた過去があるだけに、フィクションと現実がリンクするオマケまでついていた。
スパイダーマンはもともと超人系ヒーローだが、本作ではガジェット系ヒーロー代表のアイアンマンが師匠にあたる。そこで彼と同じ成長過程を歩ませるために、どうしてもガジェット系に仕立てる必要があった。

■高機能スパイダースーツの役割■
そこで登場するのがトニーから与えられたスパイダースーツ。お馴染みの見た目からは想像もつかないような驚愕の機能満載で、ピーターも観客もワクワクが止まらない。アイアンマンをホスト役に、スパイディが版権の壁を超えてめでたくMCUユニバースに迎えられた(ホームカミング)と実感できるアイテムである。
しかし、糸の種類が500もあったり、機能に頼り過ぎて逆にピンチを招いてしまう。次第に湧いてくるコレジャナイ感はもちろん意図的に演出されている。糸だけに…。

■師匠(父)としてのトニー・スターク■
自らの行いで危機を招いてしまったピーターの前に満を辞してトニーが登場し、
オイシイところを持っていって一言。
「お前にスーツを着る資格はない」
アイアンマンシリーズを観てきた観客には、一見冷徹に放たれた彼の言葉の裏にどんな想いが込められているかを知っている。
スパイダーマンシリーズで1番有名なベン叔父さんの例の台詞に代わり、ピーターを、いや全ての少年を男にさせる新たな名台詞が生まれた瞬間かもしれない。ピーターは落ち込むが、この言葉をフックに彼は自分で答えを見出し、その足で再び立ち上がる。身に纏うはお手製の衣装とゴーグルのみ。男の子なら皆通る道である。俺も文化祭で作ったわ笑
(なのでラストはもう少し伏線の効いた頭脳戦に持ち込んでほしかったなぁ…)

■師匠としてのヴィラン■
本作のヴィラン、バルチャー=トゥームスはピーターにとって、トニーと対をなす「裏の師匠」のような役割を果たしている。スパイダーマンが「親愛なる隣人」であるように、彼の敵もステレオタイプな悪党ではなく、同じように身近な者であったり、元は真っ当な人間だったりする。それは我々が住む現実の世界でも同じ。そんな複雑な事情を抱えた者たちとどう対峙するつもりなのか?という問題提起がなされる。
駆け出しな主人公の常に一手先を行くバルチャーを、かつてバットマンを演じたマイケル・キートンが貫禄のある演技で魅せる。彼もまた、バットマン以降のキャリア低迷期から華麗にカムバックした名優である。家族を持った父の顔が次第に狂気を帯びていくシーンは本作随一の見どころでもある。
MCUユニバースのパワーインフレが著しい今、バルチャーのようなコソ泥設定のヴィランでは正直物足りなく思えてしまうが、夏休み超大作としてギリギリ成立しているのは彼の功績が大きい。
(なのでラストはもう少し…略)

■主演のトム・ホランド■
そんな名優2人の手ほどきを受ける新人主演俳優。羨ましい限りである。トビー・マグワイヤほど根暗でなく、アンドリュー・ガーフィールドほど垢抜けてもいない、その絶妙なバランスは正に「お前がNo.1だ」と個人的には言いたい。必死にアクロバットの練習を繰り返すYouTube動画が公開前から話題になっていたが、そうやって努力している感じも好感が持てた。


スパイダーマンというタイトルの作品を何度も観(させられ)てきた身としては、今回は誕生譚を全カットしてくれて本当に良かった。やはりMCU最高傑作『シビルウォー』で挨拶を済ませておいたのが効いている。
がんちゃん

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