のん

永い言い訳ののんのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
4.4
去年、祖母が亡くなった。

葬儀の後で父は「涙が出なかった」と言った。



大切な人がいなくなった時、人は悲しんだり涙を流すことで前に進んでいるのだと思う。


ではそれが出来なかった人はどうやって生きていけば良いのだろう。映画を観終わった後、ふとそんなことを思った。



この映画の主人公、幸代は妻を事故で亡くし、それに対して向き合えないままいたことでもがき苦しむことになる。


これはもうどうしようもない。向き合うべき対象はもういないのだから。

タイトル通り永い(永遠の)言い訳だけが彼を縛っている。



竹原ピストル演じる父親は対照的だ。
妻の死に慟哭し、もがき、それでもやがて前を向き始める。
ミュージシャンとしてのがむしゃらな彼も良いが、俳優としての存在も異彩を放っている。


竹原ピストルにどうしようもない劣等感を抱く本木雅弘が強烈だ。


西川美和監督は出世作「ゆれる」から一貫して男性の繊細な感情を描くのが抜群に上手い。なかにもう一人おっさんがいるのではないかと疑うくらいに巧みだ。




今年の邦画ではトップクラスの傑作。ぜひ劇場で笑い、泣き、そして自分の人生に思いを馳せながら映画館を後にしてほしい。
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