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バービーのAyaxのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.0
これを知ったところで面白さが損なわれることはないと思ってるけど、展開についてちょっと言及してしまってる部分があるので、何も知らずに観たい方はご注意を。直接的なネタバレについては〈ここからネタバレ言及〉の注意文言あり。

は〜、何から書いていいやら!!
テーマが重層的で、いくつもの要素が入っているので、一回で見切った感じが全くせず、結局3回観てしまった。ルックは馬鹿馬鹿しいが構成は複雑極まりない。観る人の性別、その時のライフステージ、職場での立場などによって受け取るメッセージも違うと思う。
まず、「バービー」の出来と関係なく、以前から「好きな映画監督は誰?」と聞かれたら(聞かれたことないけど!)、ジョン・カーニーとグレタ・ガーウィグと答える準備が万端な私なので、どんなにネガティブな騒動が起きようと観に行かないという選択肢はない。特に今回のは内容と関係ないし、全然観に行く気持ちだった。不快な気持ちになって観に行く気がなくなる人がいても全然おかしくないと思う。ただ、どうしようかなと思ってる人がいたら観に行った方が良いんじゃないかなと思うし、騒動のせいで観ないという人が発生してしまったのはとてももったいないことだなと思う。そもそも「オッペンハイマー」と同日公開されなければこんなことにはなってなかったわけで。
ピンクだし、バービーだし、女の人のための映画っぽいから関係ないと思ってる男性がいたらそれももったいない。みんなに関係がある。
全部理解しようとすると難しいかもだけど、年齢的には小学校高学年くらいから観られるんじゃないかな。
フェミニズム、自己肯定、シスターフッド(私はこの言葉あまり好きじゃない、正確に言うとこの言葉を安易に多用する人が苦手)、アンチ家父長制など、それ一つで一本映画作れるじゃんみたいなテーマがもりもりで、さらにその先まで描いてる志の高さ、それらを上から目線で真面目な語り口で教えてあげるという感じでなく、怒涛のトンチキ映像でまくしたて、大きな破綻もなく114分(2時間切ってる)で収めた手腕が凄まじい。ただ、ものすごいテンポが早くて、情報量が多いので、一回で分かりきるのは結構大変なのではないかなあと思う。3回観た私も全然分かりきってないと思うし。最後のバービーの選択は「君たちはどう生きるか」と重なる部分もあるかなと思ったり。実際、グレタ・ガーウィグが「バービー」について語った記事の中でそういうメッセージがあったっぽい。ちょっとネタバレっぽくなるので、その引用は一番最後に。とにかくめちゃくちゃ賢いと思った、グレタ・ガーウィグ。リスペクト!!好き!!!
一回目観たときは、女性の生きづらさ演説からの女の子チーム最強&最高、バカな男共は隅っこで大人しくしてろという終わり方だったらどうしよう(嫌だな)と思いながら観ていたので、そうならなくてホッとした。
フェミニズムって女性の権利を主張するちょっと一方的なイメージが強いのだけど(これは私の勉強不足ゆえでもある)、この映画で表現したかったことは真の男女平等を実現するためには?という問いかけとその第一歩だと思う。男と女のどっちが偉いかという話ではない。対立してはダメ。女性が権利を勝ち取る=男性の居場所を奪うではない。というかそれだと上手くいきっこない。
女性が権利を主張するときは、男性にそんなに"男らしく"を頑張らなくていい(女性より優れてると示さなくてもいい、マッチョじゃなくていい)と言うのとセットの方が良いのような考え方を以前聞いて感心したことがあって、本作を観ながらそのことをずっと考えてた。男は女より身体的に強くなければいけない、賢くなければいけない、稼いでなければいけないみたいな呪いから男性も解放されるべきだと思うし、女性も協力できるところがあればやっていく。女らしくの呪いからの解放ももちろんやってくべきだけど、男らしくの方が現状は根深いような。これまで女性の役割とされていたことを男性がしてもいいし、それはあなたの格を下げることではないという心理的安全性の確保(超難題!)。極端な話、外で仕事して稼ぐより家事を全部やる方がいいという男性がいたらそれも違和感なく人や社会が受け入れるのが平等だと思う。女性が企業の重役や管理職のポジションにもっと登用されるべきなのだとしたら、男性の家庭進出ももっとあっていい。翻って女性もみんながみんな社会進出とかイキらなくてよくて、家事や子育てに専念したい人はもちろんそうしていい。立派な何か(社会的地位が高い役職とか)になりたい人には性別関係なくその門が開かれていて、別にそういうの興味ないという人はそれでいい。性別や社会規範に縛られなくていい。女性だけが必死に頑張って這い上がるのではなく、互いにリスペクトして歩み寄った方がより早く解決するのではないかとか、改めてたくさん考えた。なので、この映画の終わり方については良かったと思う。フェミニズムについては全然勉強不足なので見当違いのことを言ってるかもしれないけど。この映画のことをフェミニズム入門編と言ってる人が何人かいたので、映画観るだけで勉強になるのありがたい。しかも面白い。
男性が女性にスポーツやうんちくを喜んで教えてあげるというシーンが面白おかしく描かれていて、男性を馬鹿にした意地悪なシーンに見えるけど(フォトショップとか投資の話がネタになっていてめちゃ笑うが)、これって女性が共犯な時もあるんじゃないか?いつもじゃないけど。男性は女性を見下して悦に入ったことがないか、女性はそれを馬鹿なふりしておだてて促したことがないか、みんな胸に手を当てて!!※男性が女性に何かを教えたら何でもアウト(マンスプレイニング)というわけではなく、どうせわからないだろうからという決めつけやその姿勢がNG。親切はありがたく受け取るけど、馬鹿にされるのはノーサンキューということ。
そして、バービーランドのケンの存在がかわいそうだと思った男性は、それが人間世界での女性に置き換えられるということに思いを馳せて!!!ケンの扱いにムッとしちゃったらこの映画の思うツボ。
過去の映画のオマージュや、シーンや台詞に映画のタイトルが散りばめられているので、知ってる方が楽しめるけど、知らなくても問題ないと思う。「ジャスティス・リーグのザック・スナイダーカットみたい」って言ってて面白かった。
どちらかというとギャグが分かりづらいところが多々あり、字幕付けるの大変だっただろうなという感じ。字幕を読んでも結局面白さ分からずなので一つずつ誰かに解説してほしいなあ。マンスプレイニングしてくれていいので。
キャストはとにかくケン(ライアン・ゴズリング)が最高だった。さすが私が地球上で一番好きな俳優。笑うシーンはほとんどケンだった。アカデミー賞助演男優賞いきそうじゃない?シム・リウもグッドだった。
すごい絶賛した雰囲気だけど、グレタ・ガーウィグの過去作で暴力的なまでに私の心にぶっ刺さった「レディ・バード」、「若草物語」に比べると、今作はそうでもなかった(アメリカ・フェレーラの長台詞はかっこよかったが)。グレタ・ガーウィグって、女性が生きてく上での普遍的なテーマや悩みを取り上げて、観ている人にこれはあなた(個人)の話だよねと語りかける名手だと思っていて、その素晴らしい才能が今回はあまり発揮されてなかったような気がした。私個人の話だとは感じられなかった。なので、今作は出来は良いかもしれないし、とても面白いけど、ものすごい好きかと言われるとそこまでではないかなあ。グレタ・ガーウィグの新作が公開されると聞いたら、今度は私の中のどの話をやってくれるのかなという気持ちで観に行くので。というか私はグレタ・ガーウィグ✕シアーシャ・ローナンが大好きなのかもしれない。
本国では空前絶後の大ヒット中のようなので、快進撃してほしい。作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、助演男優賞、衣装デザイン賞、歌曲賞、美術賞あたりのノミネートは堅いのでは?アカデミー賞でライブパフォーマンスやったら盛り上がりそう。
〈以下、ネタバレに言及〉
ラストシーンについて。
妊娠?と言ってる人がいるらしいと聞いて驚いたんだけど、婦人科=産科ではない。男性はよく知らない人も多いかもしれないし、女性でも20代で健康体だと行く機会がなくて区別がついてないかもしれない。まあ私も産科にかかったことはないが。
あれは単純に、バービーに性器ができた=人間の女性になったことを表してるのだと思う。今までなかった機能が備わったワクワク感や、過酷で歪な社会で肉体の劣化や死とも向き合いながら生きていくという表明とも取れる。
劇中の中盤のシーンの字幕では「お股ツルペタ(性器がない)」とマイルドな表現になっているけど、英語ではそのものの名詞を言ってるので、英語圏の人にとってはかなりドギツいシーンになってるらしい。そこがマイルド過ぎたので、多くの日本人には最後のあのシーンが唐突に感じられて???になったというのはあるのかも。
私が分からなかったのは外国人の観客があのシーンで笑っていたという話で、就職の面接と見せかけて、婦人科というオチだったというジョークらしい。まあ意味は分かるけど、笑いのハードルが欧米の人は日本人より低いんだなと思った。
グレタ・ガーウィグの記事について。「少女時代から雨風に打たれる大人の段階まで、人間としての人生とは、いたましくも美しいのだ」と言っていたらしく、その考え方が「君たちはどう生きるか」のメッセージと私は通じるところがあると思った。
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