きゅうげん

バービーのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

バービー(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

アカデミー賞での『紳士は金髪がお好き』パロディなライアン・ゴズリングが最高すぎたので。


『2001年 宇宙の旅』オマージュの冒頭は、母性的なおままごとに終始していた人形遊びの世界に、個人の嗜好を仮託して楽しむファッションドールが誕生した……という『バービー』の歴史的意義をイメージで物語る秀逸な導入です。
またそれを、序盤の山場である持ち主との邂逅にて、現在ではかえってステレオタイプを強化する存在になっていると断罪して転倒させる建設的な問いかけも忘れてません。

では彼女はどうすればいいのか。
自己規定をめぐる彼女の葛藤は実存への問題へ膨らみ、男性社会に魅せられたケンと男性社会に苦しめられたグロリアとを巻き込んでゆきます。
そして、バービーたちをエンパワーメントするグロリアの演説や、ファロクラシーは自己実現たり得えないと気づいた「Ken is me!」というケンの言葉などの、その素晴らしいパーソナルなハッピーエンドは、規範や通念に縛られず個人の思うがままに楽しめるファンションドール“バービー”本来の理念に最も適うものです。
(……そういう意味で、いちばん持ち主の自己表現が投影された“変てこバービー”が、いちばんメタレベルで“バービー”を客観視できているのはとても意味深長だったんだ、と言えますね……)

そして主人公のバービーは、創始者ルースの願いや思いを知り人形としての究極の実存である「人間になること」を成し得るのです。
この個人の選択として人間となり、いち女性として婦人科へかかるラストシーンは、現代版ピノキオとしてオモチャ映画における最良の答えを表したものと捉えることができるのではないでしょうか。


……強いて不満をいうなら、アランとミッジのストーリーにもっとスポットライトを当ててほしかったです。あの二人こそ最も救われるべきキャラクターなんだから。
マテル社のウィル・フェレルが最後までまっっっっったく何もわかってない感じなのは、まぁアレはアレでいいんですよ、たぶん。
公開当初の日本は、不本意だったり恣意的だったりする形での話題が目立ちましたが、しかし一方で評価の落ち着いたこれからは、この映画がひとつの物差しとなって、私たちの時代を測る作品になってゆきそうです。


にしても、バービー界隈なかなかスゴイですね。ビデオガール・バービーとか、シュガー・ダディ・ケンとかイヤリング・マジック・ケンとか、ケンメイド(演ジョン・シナ!?)とか。
そういや、昨年は劇場版『シルバニアファミリー』もやってたんでしたっけ……?
東西人形映画対決、チェックしとけばよかったな……!