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ストーンウォールのemilyのレビュー・感想・評価

ストーンウォール(2015年製作の映画)
3.7
 1969年実際に起こった、同性愛者たちの権利運動「ストーンウォールの反乱」と呼ばれる物を基盤に描くそこに至るまでの、実話社会派ドラマになっている。

 ゲイであることが明るみになってしまったダニーは地元に住み続けることができず、親元を離れ一人、ニューヨーク・グリニッジ・ビレッジのクリストファーストリートへ向かい、いろんな人たちと出会う。その一人がレイである。男娼でお金を稼ぐしか手段がなく、皆でざこ寝してなんとか生活している日々だった。政治活動家のトレバーと出会い恋に落ち、しっかり同性愛者であることを認識し、みんなの中に溶け込んでいくダニー。やがて暴動へつながり、体も心も開放していく。

 法律によりその存在すら禁止されていた時代。仕事も行き場もなくとも、自分らしく生きることを選んだ彼らは全く鬱々とした雰囲気がなくどこまでも明るくすがすがしく、ユーモアがある。それぞれが苦しくとも自分の居場所をちゃんと感じてる。時代を感じさせる音楽が瑞々しく寄り添い、彼らの表情や感情描写にしっかりマッチしている。青年たちだけではない、そこにいる大人たちにもしっかりドラマがあり、それぞれの方法が上手く入り乱れ、魅力的な展開を見せてくれる。

 そうしてゲイの人たちは美形ぞろいである。特にレイを演じるジョニー・ボーシャン。なんと本作が長編デビュー作だそうですが、その美しさにくぎ付け。細いラインに、魅惑的な目の動き、ヤキモチやいた時の、絶妙な心理状況、小柄ながらも圧倒的な存在感を放ち、次回作が非常に楽しみな俳優である。
 
 当然日々の笑顔の中には、理不尽な警察の暴力行為や取り調べがあり、レイは客にレイプまがいに暴行を受けてしまう。また傷だらけになって泣きじゃくるレイが可愛くて、女の子にしか見えない。

 日々の音楽とお酒、底抜けに明るい彼らを見てるだけでも元気をもらう。何といっても自らが選んだ道、偽って生きるほうが幾分楽だろう。しかし自分が自分であることに誇りを持ち、若い彼らは自分のいるべき場所をしっかり持っていることが素晴らしい。ダニーもそんな彼らに感化されて、自分が自分であることに向き合い始めるのだ。暴動までのヒューマンドラマにはしっかり動きがあり、ダニー演じるジェレミー・アーヴァインの安定感のなかった目にしっかり強さが備わり、前だけを見てる反乱の後の表情が印象的である。何気ない心情をしっかり目線で綴る。それは自分が自分でいることを偽りなく見てきた、真実を知ってる鏡のように語っているのだ。

 瑞々しく印象深いシーンも多い。特に彼らが横一列に肩を組んで並んで、ステップを踏みながら歌うシーンには涙が止まらなかった。失うものが何もなくなった時、自分が自分であることを誇れるようになったとき、人はおのずと強さを持つ。今戦わないと未来なんてないのだ。見栄も名声も周りの目もすべて今が作っていくのだ。それは未来なんてないことが分かってるから、今戦う道を選んだ彼らの底知れぬ強さからの行動である。当然一人ではできなかった。信頼できる仲間がいる。自分の居場所がここにある。それだけが一人をそうしてみんなを強くするのだ。その勇気は当然未来である今につながっている。戦った”今”という彼らの時代があったからこそ、”未来”という今の時代がある。未来を切り開く、新しい年を迎える年末に見れてよかった。
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