まっつん

マダム・フローレンス! 夢見るふたりのまっつんのレビュー・感想・評価

3.7
ナメててごめんなさい物件。凄く良い映画であったと思います。

本作は客観的に観ると熱意や情熱は人一倍あるんだけど絶望的に才能がない女性と金にモノを言わせて芸術というものを私物化する夫という実に胸糞悪い話なんですよね。しかし、メリルストリープ演じるフローレンスフォスタージェンキンスのあまりに度を越した純粋さによってやっぱり応援したくなってしまうわけです。それは表現というものに於いて上手い下手を超えた「何か」であって、「上手い表現」と「いい表現」はまた違うことなんですよね。アイドルとかっていうのもそういうことだと思うんですよ。

そしてマダムフローレンスを演じたメリルストリープの超絶技巧派っぷりは相変わらず半端ねぇなと。彼女って当然歌も超絶うまいんですけど、敢えての歌ヘタ演技。しかも絶妙に下手な感じというか、誰もが聞いた瞬間に下手くそってわかるタイプの下手くそじゃ無いんですよね笑。どっかの地点で突然崩壊してしまうと言うか笑。

マダムフローレンスの夫を演じるのはヒューグラント。彼が実に興味深い人物だと思いました。全てが正しい人物として描かれておらず、マダムと結婚してるのも遺産目的なのかな?っていう感じもするし、挙げ句の果てには若い愛人までいると。とにかくグレーでヒューグラント十八番の軽薄な印象が終始つきまとっています。しかし一方で彼がマダムに向けた愛はそれはそれで間違いなく本物なんですよね。ずるい手を使ってでも彼女の純粋さだけは何としても守り抜く。たしかに客観的に見れば彼のしたことは終盤で登場する音楽評論家の言う通り許されない事かもしれない。しかし、そこにはこの夫婦にしかない愛の形があるわけです。映画の最後で彼がマダムに向けた笑顔は彼女に対する最大限の愛とリスペクトの証しなのです。

このように軽いタッチでありながら、二元論的に割り切れない愛を描いた実は非常に深みのある映画だなと思いました。