シネマJACKすぎうら

帰ってきたヒトラーのシネマJACKすぎうらのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
4.2
この映画かなり笑えるのだが、純然たるコメディとは言い難い。というのは、いま欧米を中心に深刻化している”難民問題”を背景とした”ある危惧”に対して、かなりシリアスかつ強いメッセージを発しているからだ。その真剣度は、ビターなラストからも窺い知れる。

驚いたのは、マイケル・ムーアばりのドキュメンタリー手法をかなり踏み込んで活用している点。これで、観客を”対岸”に置かず、決して絵空事ではないこの映画の世界に引きづり込むことに成功している。

また、主人公(?)ヒトラーを実に冷静でユーモアを解するスマートな人物像に設定しているのも面白い。よって、劇中の大衆が彼に熱狂しはじめるサマに違和感を感じないのだ。それは1930年代に実際に起きた歴史的なプロセスにも、我々は違和感を感じることなど出来るのだろうか、という意味にもなる。

残念ながら、この映画が世界でもっとも”当事者意識なく”観られてしまうだろう国は日本ではないかと思う。
実は、危惧する事態のきっかけとなり得る”移民問題”は、もはや我が国にとっても他人事とはいえない。それほど事態は深刻。
じゃ、何故そんな感じがしないのか?
マスコミが報道しないからだ。

劇中、ヒトラーが「料理番組など撮っている場合か!」と恫喝する場面がある。もしかしたら、これは本作の制作者から発せられた、日本のテレビ界への皮肉なのかも知れない。