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シークレット・ロードのBATIのレビュー・感想・評価

シークレット・ロード(2014年製作の映画)
4.0
ロビン・ウィリアムズの遺作。予告が気になってレンタルで視聴しましたが、とても素晴らしかった。目や表情に光や覇気のないノーランは正に精神を病んだロビン・ウィリアムズ本人にしか見えなかった。

ゲイであることを隠しながら平凡な人生を生きることを選び結婚、仕事は年齢にしては大した役職にもついていない、冴えない銀行員、子供のいない妻との生活は幸せではあるが形骸的で、ベッドも別々の部屋で眠る日々。厳格であった父親は老衰で寝た切りとなり病院に預けて介護。あらゆることが彼を縛り付けている。

彼に別の地域での管理職への昇進話が持ち上がるも、今一喜べない。上司からは推薦した面子を潰さないようプレッシャーだけがかかる。

帰り道ふと街並みの娼婦たちがたむろす通りでレオという男娼と出会うところから物語は動き始める。

この物語は単なるゲイのピュアラブという訳ではなく、ノーランは自分の生活の閉塞感で窒息しそうで息継ぎ代わりにレオを買う。ただ妻への不逞を働きたくはないのでレオを抱きはしない。洋服を脱ぐレオを見るだけで触りもしない。レオにとっては男娼は仕事だから何もしないことに違和感を唱える。何も仕事をしていないのにお金を貰うのはおかしいと。ノーランは毎日レオを買うようになる。そして外で食事をしたり、男娼を辞めて知人の店で働くように薦めだす。

ここが風俗に愛を求めてハマる人間の陥りやすいところだと思うが、レオは仕事だから客を引き、ノーランとも会うだけだ。特別な感情などない。ノーランも特別な感情というよりは、欲しい時にレオを買うだけで恋愛感情ではなく自分が自由に出来るモノとして接し、プリペイド携帯を買い与えたり、仕事を世話しようとしだす。この辺りが「午後3時の女たち」と同じテーマを描いているように思った。

そしてキャシーベイカー演じる妻との生活にも耐えられなくなっていくのだが、妻は悪妻でもない。ノーランがどんな人間か理解しており、何事も見てみない振りをして許す器量のある女性である。それでも自分自身を偽ることが出来なくなったノーランが何をするのか。

この物語には綺麗ごとがない。人は自分の人生を生きることしか出来ない。平凡だが世間的な幸福な人生を選んでも自分が幸福になれるとは限らない。歳を重ねて人生の岐路に立った自分にとってはとても胸に響く物語でした。

マイカー通勤の間殆ど人のいない街並みと車の中のロビンのショットが象徴的で、下界と隔離された孤立感が描写されている。「ドローン・オブ・ウォー」にも通じる描写でした。
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