開明獣

ジョン・F・ドノヴァンの死と生の開明獣のレビュー・感想・評価

4.0
全く違った生き方の2人が、その無垢さや、純粋さに触れた時に起こる共感が世界を変えていくことがあるのかもしれない。

自らのアイドルに献身的な手紙を綴った少年と、その想いに応えようとした、実生活では苦悩していた俳優。政治記者として活躍するジャーナリストと、新進気鋭の若き作家にして俳優。教師と教え子。母と子。

だが、現実では、無垢への共感だけで社会が成り立つことはない。役者という世界では、偽りが最高のパフォーマンスを産むこともある。理想と現実のギャップの中で折り合いをつけたいと、不器用に生きている人間や、それをなんとかしたいと考えている人間を応援する。これは、ドランが私達にあてた、共生を願う手紙なのかもしれない。

今までの内省的な作風から、社会へのコミットを模索するような転換期の作品のような気がする。スタイルを変えると、批判されやすく、この作品の評価が低いのは、一部そのせいなのかもしれない。確かに、メッセージをうまく伝え切れてるとは言えず、だが、創作へのドラン自身のもがき、あがき、はドノヴァンの苦悩そのものでもあるようにも思える。地味で起伏の無い展開は、時として退屈を催すこともあろうが、時折見られる音楽を上手く使った演出は、ドランならではのものである。

ウエスト・ワールドでも独特の存在感を醸し出していた、ジャーナリスト役のタンディ・ニュートンの好演がさりげなく、この作品に興を添えている。観賞後の時の経過と共に味わいが増してくる、滋味深い作品だった。
開明獣

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