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ケンとカズのemilyのレビュー・感想・評価

ケンとカズ(2015年製作の映画)
3.7
 自動車修理工場で働きながら麻薬の密売でお金を稼いでいるケンとカズ。ケンは恋人が妊娠し、カズは認知症の母親を施設に入れるためにお金が必要だった。カズは敵対しているグループと手を組み密売ルートを広げようと企てるも、元締めから目をつけられ・・・

 揺れるカメラ、拳の音がずっしりと鳴り響く、どこか危うさを持ち、何をするか想像できないような表情を常に持つカズ、密売をしながらも人間味があり、一線を超えないように張り詰めてるケン。二人の目線が交差し、クローズアップで意味深に切り替え、無言で車に乗り現場に向かう。当たり前のように助手席にはカズがいて、そんな日々がずっと続くと思っていた。

 底辺の二人を中心に描きながら、そこにドラマティックな展開がある訳ではない。すべてが地味だが、設定や間のつめ方もリアルで、確実に欲かいた分二人に降りかかってくる。腐っても心までは腐っていない。口では偉そうな事言っても実際には理性が心が歯止めをかける。残った善意は無意味に砕け散り、たった二人のヤクザの組に攻めたてられ、緊迫感のある乱闘へ発展していく。選択肢のない選択を突き付けられ、それでも中途半端にしかできない所に、人間性をしっかり見せ、見た目やうわべでは見えてこない、やさしさや情を感じる。

 だから二人にどんどん感情移入していく。誰かを守る事、誰かのために犠牲になること。たとえそれが間違った方法でも、たとえそれが少し遅い決断であっても、そんなどんくさい部分に人間らしさを感じずにはいられないのだ。ラストに見せる意味深な笑顔。当たり前に助手席に居たふてぶてしい横顔も今では愛おしい存在となる。そうして今自分がすべきことを思い知るのだ。誰でも現状より上の物を求めてしまうことがあるだろう。その結果、うまくいく場合もあるがその欲が仇になることもある。しかし仇になって救われる物もあるのだ。
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