りっく

牡蠣工場のりっくのレビュー・感想・評価

牡蠣工場(2015年製作の映画)
4.3
そこで暮らす人間たちと信頼関係を築くことで気さくな部分を引き出すことで起こる笑い。その一方で言葉や仕草や表情の端々から垣間見える彼らの覚悟や誇りや諦念や虚無も想田和弘は見逃さない。だからこそ観客も映し出される人間から目を離せなくなる。やっぱり観察映画は面白い。

人助けするジャイアン似の男の凛々しい表情。カメラを向ける想田和弘に“監督は世界を見てるってことですよね!”と軽口を叩く女性の諦念。そして中国人に牡蠣の剥き方を手振りで伝える師匠の笑み。一見笑える場面でも、最後の最後まで人間を追おうとすることを止めない映画。

映画冒頭に大写しになるネコのシロが効いている。この地域の案内役としてカメラを誘い、また舞台挨拶で監督も言っていたが、その存在自体が出稼ぎ中国人など、様々なメタファーを含んでいるように見える。本当のネコの名前はシロでもミルクでもなくボクだったというオチ含め最高の存在。

牡蠣を引き上げる→カゴに入れようと狙いを定めるが揺れて時間がかかる→ロックオンしたら一気に牡蠣の塊を落とす→でもなかなか網から牡蠣が取れない→最後は人間が棒を持ってくっついた牡蠣を叩き落とす。冒頭に映される日常風景なのだが、その一連の作業のリズム感が可笑しく心地よい。

基本は気さくな人間たちの生活模様を描いているが、根本的にクリアになっていると思いがちな、撮る撮られるという関係による人権の問題をぶっ込ませる所がスリリング。そして「選挙2」でも同様のことを感じたが、そういう場面では想田和弘は撮る側の権利を曲げない。だからこそ強い。
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