KnightsofOdessa

白い風船のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

白い風船(1995年製作の映画)
4.0
No.896[善きサマリア人のたとえ話] 80点

塾講時代から思っていたことなのだが、哀しいかな実は子供が苦手らしい。だからなのか、最後の手段として散見される”子供と動物”みたいなお涙頂戴系映画に涙をもっていかれることはほぼない。先のカンヌに新作を出したパナヒのデビュー作であるのだが、彼が助監督をしていたキアロスタミの脚本であり、当時子供をイジメまくっていたキアロスタミ色が全面に出ている。うげぇ…二重で苦手だぁ…

なのだが、一旦感情を抜いてしまえば深い部分に色々見えてくるから面白い。構造は聖書にある”善きサマリア人のたとえ話”である。追い剥ぎにあった旅人を祭司とレビ人は無視するがサマリア人は旅人を助けるという隣人愛を説いた寓話だ。祭司は蛇使い、レビ人は服屋の店主やイラン人兵士、サマリア人は風船売の少年と捉えると聖書の配役にもピッタリ一致するのが面白いところ。つまり、蛇使い(修行者)は宗教的な偽善、服屋の店主やイラン人兵士は自己中心的な発想、風船売の少年は道徳的正義や無条件の隣人愛を表しており、お金を無くした少女に降りかかる災難を観客とともに経験させることで希薄になった現代人の隣人愛や無関心を嘆いているのだ。

太った金魚が欲しい!と買いに行った先で、水の屈折で大きく見えてたことを知り”うーん”みたいな顔する女の子が可愛すぎる。あと、お兄ちゃん優しすぎる。一緒に溝の横に座って”どうすっかね…”みたな顔してるシーンは最高に気に入った。最後まで買われなかった白い風船と移民の風船売の孤独感を重ねたラストシーンは胸を締め付け続けるだろう。

これが初パナヒだから、これ以降のパナヒがどうなのかは知らんが、本作品に限って言えば「市民ケーン」と同じ失敗をしないための準備のような感じがする。子供は苦手だが案外楽しめた。パナヒ作品は少ないから全部追ってみるか。

追記
最後、風船売の少年に礼も言わずに金魚を買いに行った兄妹は中産階級の傲慢を表しているらしい。なるほど。
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