りりー

海よりもまだ深くのりりーのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
5.0
”さよならだけが人生ならば”という一節で始まる有名な詩があるが、”だけ”とは言わないまでも、たしかに人生はさよならの連続なのだろうと思う。誰だって多かれ少なかれ後悔や未練があって、”こんなはずじゃなかった”という想いを幾度となく抱く。それでも、なりたかった自分、叶えたかった夢、欲しかったもの、すきだった人、言いたかった言葉、たくさんの想いに日々さよならを告げて、忘れたふりをしなくては、到底生きていけない。人生はびっくりするほど長いのだから。

本作の主人公・良多は、たくさんの後悔や未練、見栄や願望でがんじがらめになっている。長すぎるスランプにあっても、自身の才能を諦められない。お金はなく、職は不安定にもかかわらず、ギャンブルを断てない。息子に慕われたくてかっこをつけ、別れた妻を忘れられない。そんな彼が、どうしても手放したくなかった一つの想いにさよならを告げるまでの、みっともなくて小さくて、とびきり優しい二時間を、愛さずにいられようか。

海は思っているよりもずっと深いし、空も思っているよりもずっと青い。その深さや青さを知らないから、きっと生きていけるのだ。いつか知ることができるって、夢見ていられるから。
りりー

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