りりー

天才作家の妻 -40年目の真実-のりりーのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

生まれるべくして生まれた物語ではあるだろうけれど、それにしては結末が甘いように思う。
抑圧された状態にある人、とくに女性は大勢いて、近頃ようやく抗議の声が聞こえるようになったところで、まさに抑圧された女性を主人公に据えた本作が、支配者が死んだからこれからは自由に生きよう、なんて結末を迎えるのは楽観的すぎやしないか。ジョーンとジョゼフが夫婦であり、またある種の共犯関係でもあったこと、その愛憎の捻れを思えば、ジョーンがすべてを公表するべきだとは思わない。ただ、ジョーンがもうジョゼフの影でいることに耐えられない、もう彼とは一緒には生きたくないと思ったのなら、その気持ちをはぐらかすような結末にはしてほしくなかった。これがリアルな落とし所なのだとしても、映画はもう一歩先へ行くべきだと思うのだ。

ジョーンはジョゼフに心底うんざりしていたと思うが、一方で死の間際に告げた「愛している」も決して嘘ではないだろう。ジョゼフの浮気性は、ジョーンが自分から離れていくのではないかという不安から生じていたのだと思うけれど、ジョーンもまた、ジョゼフから離れたら自身の才能が消えてしまうと思っていたのではないか。ジョーンを誰よりも早く見つけてくれたのはジョゼフだったから。しかしジョゼフこそが、ジョーンの才能を食い尽くす存在であることに、ジョーンはいつ気づいたのだろう。ジョゼフがジョーンに「共著にしないか」と言えていたら(言ったことはあったのかもしれないね)、ジョーンが自分の才能に自信を持てていたら。同じ気持ちで二人はベッドで跳び跳ねられたのだろうか。並んでスピーチをすることができたのだろうか。

役者陣は皆良かった。とくに主演の二人の掛け合いは見応えがある。グレン・クローズは今度こそ、アカデミー賞を獲るだろう。
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