りりー

ファースト・マンのりりーのネタバレレビュー・内容・結末

ファースト・マン(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

とても良かった。今までに観たチャゼル作品でいちばんすきだ。
チャゼルの作品はいつも狭い世界が舞台になっているけれど、それは本作でも変わらない。人類初の月面着陸に成功したニール・アームストロングという人物を描くあたり、ニールが任務に携わる日々だけでなく、父親/夫として家で過ごす姿、宇宙飛行士の妻として苦悩を抱えて暮らすジャネットを描いたことで、とてもパーソナルな作品になっている。

テストパイロットに従事していた時期に娘を亡くしたニールは、より危険なNASAのパイロットを志願し日々死に直面することになる。娘を救えなかったことがきっかけではあるのだろうが、ニールが月を目指す真意は誰にも、ジャネットにすらわからない。今日が最後かもしれない、と思いながら夫を送り出すジャネットの心痛はニールにはわからない。同じ家に暮らしながら、ニールとジャネットは遠いところにいる。
同僚を亡くしてからのニールの任務へ臨む姿勢は、まるで自ら死のうとしているかのように見える。だからこそ、ジャネットはニールが月面探査任務へ向かう夜に、子供たちへの説明を求めたのだ。ニールはもう帰らないのではないかと思ったから。ニールがジャネットの目を見ようとしないのは、ニール自身もそのつもりだったからなのではないか。親としての責務をニールはぎこちなくこなし、月へ旅立っていく。
月面でのしめやかな儀式を終え、ニールは(あくまで劇中では)あっけなく帰還する。緊張した面持ちのジャネットを、ニールは真っ直ぐに見据え指先を伸ばす。娘を亡くして以降、生きながらにして死の淵を歩いていたニールは、ようやくジャネットのもとへ帰ってきたのだ。夫婦であろうと分かち合えない孤独はある。もう遅いかもしれない。それでもいまはともに生きていきたい。重ねられた指先はそんな祈りのように思えた。実際は二人は後年離婚するそうだ。だからこそ、あのガラス越しの邂逅はいっそう切なく、美しく思える。
りりー

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