panpie

ある戦争のpanpieのレビュー・感想・評価

ある戦争(2015年製作の映画)
4.1
去年の暮れ辺りに短い期間だけの上映で観に行けなかった今作。
見逃した映画にはやはり執着があってレンタルされる事が分かりとても心待ちにしていた映画だった。
GWを利用して観れるだろうと高を括りまたまた容量オーバー気味でレンタルしてしまって返却期間までギリギリなのだがやっと観る事が出来た。
後もう一本ある〜!(ToT)


アフガニスタンが舞台。
数人の兵士達が歩いていると突如として爆発が起き一人の兵士の膝から下が吹っ飛ぶ。
アナスと呼ばれた兵士は白目を剥き衛生兵が駆け寄るが介抱の甲斐もなくやがて死ぬ。

粗末な基地で今回の様な事故が起き話し合うも巡視は無駄だと隊員達から不満が噴き出す。
中隊長のクラウスは皆を集め我々のお陰で市民の生活が守られていると話すが隊員達の顔は浮かない。

場面変わってデンマーク。
ある母親が言う事を聞かない小学校低学年ぐらいの男の子に手を焼いている。
なんでも友達をかじったと先生に言われている!
その子の下にも更に小さい3歳くらいの弟がいて母親は大変そうだ。
父親はクラウスだった。
子供達は父親からの電話を楽しみにしているが今夜は電話が遅くなって子供達と話せなかった。
妻のマリアは言う事を聞かないユリウスの事は夫には何も言わず夫の帰りを心待ちにしている。
ユリウスも父親の帰りを待ち望んでいる。
父親の不在が彼をいらだ出せている様だ。
パパが大好きなんだな。

翌日アフガニスタン。
巡視をしているとある男が娘の火傷が酷いから助けてくれと現れる。
武装したまま家の中へ入ると男の妻と泣いている女の子がいる。
女の子は腕の火傷と包帯がくっついてしまって痛くて眠れないという。
手当てをしてまた来ると約束してその場を後にする。

前に火傷した娘を助けた男があんた達に助けてもらった事でタリバンが仲間になれと執拗に夜に来るから怖い、助けてくれとクラウスに頼みに来る。
また助けに必ず行くからと言い残して立ち去る。

約束通りあの家族の様子を見に行くと皆殺しにされて数日経っていた。
落ち込む隊員達。
その時突然ラッセが首を撃たれた!
激しい銃撃!
慌てふためく隊員達。
敵を確認できれば航空支援を頼めるがまだ敵は確認できない。
首を撃たれたラッセは瀕死の状態だ。
このままでは命が危ない!
クラウスは通信兵のブッチャーに
「敵の確認など不要だ
ラッセが危ない!
敵を見たと伝えろ!」
と叫んでしまう。
すぐに上空から爆撃が開始され隊は助かった。
後日ラッセは基地からイギリスへ送られ外科手術を受け助かったそうだ。
ラッセからのビデオレターが届く。
首を撃たれている為喋れず紙に文字を書いて伝えている。
最後にクラウスに当てて
「助けてくれてあなたに感謝します」
とメッセージが映し出されビデオは終了する。
隊員達から拍手が起こる。
暗い顔をしていた隊員達の顔に笑顔が広がっている。
そこへ司令官が法務官を連れてやって来た。
この間の戦闘で民間人11人が死んだらしい。
敵は本当にいたのか?
確認したのか?
問われるクラウス。
隊員は個々に呼ばれクラウスは起訴されてしまった。

クラウスの帰国に喜ぶ家族。
特に反抗的だったユリウスは嬉しそうだ。
ママがハグしてもいつもは嫌がるのに今日はママにも優しく笑顔を向けてハグされている。
クラウスも嬉しそうだ。
夜になって外でタバコを吸うクラウスに子供を寝かしつけて寄り添うマリア。
夫の突然の帰国に訳がある事、時折見せる夫の沈んだ顔を見逃さなかった。
クラウスは起訴された事をマリアに打ち明ける。


冒頭からずっとドキュメンタリーの様に淡々と続く今作。
ここからはずっとクラウスを裁く場面が続く。
よく法廷ものに出て来る裁判所の法廷とは違って裁判官、弁護士と被告人、検察官と証人、傍聴人十数人が入るくらいの会社の会議室ぐらいのこじんまりとした広さで行われていた。
検察はクラウスが敵の存在を確認せずに航空支援を要請した証拠に音声を聞かせ有罪と攻め立てる。
クラウスは「覚えていない」とか「誰かが見たと言った」と言う様に歯切れが悪い。
裁判の行方は?
クラウスは有罪になるのか?


確かにクラウスの要請で航空支援を行って子供を含む11人が犠牲になった。
だがラッセは確実に敵がいると思われる方向から首を撃たれており支援がなければ助かる事はなかったし支援をもっと遅くに要請していれば出血多量で確実に死んでいたのだ。

国際人道法上において法を破った者の最高刑は死刑なんだそうだ。
ラッセ一人を助ける為というより隊全員を助けたとしても民間人を誤爆した事に変わりはないのだろう。
アフガニスタン辺りでは少年兵などはいないのか。
結局は誤爆したのか子供を含む兵士達だったのか兵士のそばに子供がいたのかあるいは家族ぐるみで銃撃したのかは劇中で明らかになっておらず2度観た感想としては状況がはっきりわからない場合や戦闘中の精神状態を考えたとしてもその場にいない人が状況証拠だけで人を裁く事の難しさを監督は伝えたかったのではないか。
戦争がそもそも敵と位置付けただけで武器を持っているから殺していいという定義にも首を捻らなければならずそう言った意味でも裁く事の定義の曖昧さを突き詰めると疑問だ。

タリバンから救いたいと駆けつけた家族の子供の死体の足の裏や民間人の子供の撃たれて吹き飛ばされて体からちぎれた死体の足をやや長めに写し印象付けて裁判後布団からはみ出した我が子の足の裏が映し出されおそらくこの時クラウスは死んだ子供の事を思ったに違いない。
死んだ子にも親がいてタリバンだ!敵だ!という前に一人の親なんだと。
自分と同じ我が子を愛する親なんだと。
冒頭に仲間が足を地雷?で吹き飛ばされているシーンがあったがここでも足を映していたっけ。

今作は過去の大戦ではなく年代など表記はないもののアフガニスタン侵攻したNATO同盟国だったデンマークを描いた作品だと思われる。
日本は同盟国ではないがNATOとは連携関係にある以上今作の様な事がこれから先起こらないとは限らないと危惧した。
派遣された先で戦闘に巻き込まれるかもしれない。
ここまではOKでここからはNOという線引きが戦闘において果たして可能なのかも疑問である。
突き詰めると戦争がある限り答えは出せないのかもしれない。
難しい問題である。
今作には救いはない。
でも物凄い問題を観た者に投げかけている。
リンホルム監督は「偽りなき者」の監督だった事にレビューする迄気が付かなかった。
素晴らしい監督だ。
ここでも家族の愛を描いていてそこが唯一の救いだったかな。
平和な日本で映画を観てレビューしている自分がなんだか恥ずかしい様な申し訳ない様な気持ちになった。
とても重い問題提起をしている今作だが私達に出来ることはこういう映画を観て少しでも考える事が重要なのではないかと思った。
panpie

panpie