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パターソンのemilyのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.3
 ニュージャージ州のパターソンに暮らすバス運転手のパターソン。彼の何気ない一週間を朝同じベッドで目覚めるところから描写する。日々のルーティンの中で出会う人たち、同じ景色の中で詩を綴る。

 パターソンのとある1週間を妻と一緒に目覚める同じカットから綴っていく。日々のルーティン。仕事へ向かい、同僚の愚痴を聞き、バスを運転する。同じことの繰り返しの中で確実に昨日とは違う事がおこる。乗客は当然いつだって違う人たちがいて、何気ない会話を楽しむ。同じ風景、同じ道、しかしそこを通る人たちは昨日とは違う。そんな日々の幸せを確実に抱きしめ、詩を綴る。穏やかなパターソンとは真逆の独創的な生活を送る妻。家に閉じこもり絵を描き、独創的なサンドウィッチを作り夫に持たせる。

 特徴的なのが何人かの双子が登場することだ。最後には妻と同じ顔をした女性がモノクロ映画に登場したりする。何気ない日々、しかし見逃しがちなすれ違う人、言葉を交わす人、そのすべてが貴重で奇跡で、同じ人とは二度と出会えないかもしれない。しかし日々あらゆる人たちとすれ違い、その一瞬の出会いに人は目を向ける事はない。携帯を持たず質素な生活を送るパターソン。言葉で文句や愚痴を告げる事はなく、穏やかに日々同じ事を繰り返す。体に刻まれた日々のルーティン。時計を見なくとも体が自然と動く。しかしそれを壊したいとは思わない。彼は日々の小さな幸せをしっかりと噛みしめ、その中から美を見出しているのだ。

 ただ歩く姿を映す。しかし昨日と同じ太陽が降り注いでいても、影になる部分は違う。皮肉も効いていてシンプル生活が裏目に出ることもある。しかし彼は決して悪態ついたりしない。常に冷静で起こった事を受け入れる事が出来る。それはどんな出来事にも良い面があり、きっとそれが”よかったことになる”と思えるからであろう。日々気が付かないようなすれ違うだけの人たち、そんな人たちの会話。不平不満を募らせ、ない物を求め続けていれば欲望は果てない。しかし幸せとはやはり日々の生活の中にある物であり、求めて手に入る物ではない。人はそれをなくしてみないとその貴重さに気が付かない事がおおいが、本作をみれば、穏やかな気持ちを残してくれ、自身の生活がどれだけ幸せに満ちているか考えさせられる。
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