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美しい星の8637のネタバレレビュー・内容・結末

美しい星(2017年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

久々にすごく良い映画を観たという感覚。

予告の展開とは違って、家族四人に違う偶然が折り重なって、行きたくもない運命に辿り着いてしまうような映画だった。
三島由紀夫の小説からできた現代の脚本が、判らないようで解ってる、言葉たちで溢れてる。

きっと吉田大八監督は、日本なんか目指していない。
そんな知性すら感じる冒頭シーン。明らかに「ザ・スクエア 思いやりの聖域」のリューベン・オストルンド監督のような感じがした。それでそう感じた。

この話はSFが主体になってる気がしない。ニュース番組のシーンは全てが風刺になってる。キャスター同士がやってるのが当たり前だったり。
それに初めのうちのお天気キャスターはぎこちなかった。

暁子が何かを感じた曲「金星」は平沢進が作ったそう。それ自体がすごいことだが、その才能を若葉竜也が受け継いでいる事がすごい。本当に路上ライブをするシンガーソングライターの様な居方だった。
それに惹かれた暁子が金星人になるシーン、あの躍動は映画のものでなかったけど、躍動だから。

なんだかんだ言って、地球人が陥ってる状況が一番怖い。「美しい水」なんて嘘に決まってるだろ。賞味期限も分かってないのに100ケースを受け入れてしまう。

そして火星人になった重一郎もそう。ぎこちなかったお天気コーナーであんな剣幕で地球温暖化に向かう社会情勢を、フリップを使って話しかけていくなんて。数回あったあのシーンで全部大爆笑だった。

それが発覚した後は淡々と時間が流れていくのだが、佐々木蔵之介演じる黒木が語る惑星と地球に関する思想は興味はあったが、難しく語られていて、感じていたテンポが失速してしまった気がする。

そしてあの謝罪放送のシーン。あれは生放送のようで収録のようで演劇のようだ。水星人の一雄との対話は、"誰"と"誰"しての対話だったんだろう。
そして、この清々しい映画の中に血が流れ出る瞬間。

いきなり飛ばすが、家族皆地球人と分かった以上なぜ病院を逃げ出すのだろう。現実的な逃避になってしまったが。
街の綺麗さを、まじまじと直視できなかった。地球の悪漢の部分を知らされた上で観ても。

映画で大型動物が急に登場するシーンって良いですよね。「蜜蜂と遠雷」とか。やはり知性的な邦画ばかり、そういうシーンをシュールと感じる。

最後のシーンだってそう。少し前に暁子が話していた「火星人としてのお父さんは死なない」という言葉を実感できた。この考察で合ってるか分からないけど、あんなに救われたようなラストを観て、良い映画と感じない自分は放って置けないのだ。

吉田大八監督大好きです。改めて色々見返そうかな。そして「騙し絵の牙」は絶対映画館に観に行こうと思う。
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