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92歳のパリジェンヌのemilyのレビュー・感想・評価

92歳のパリジェンヌ(2015年製作の映画)
3.4
 かつて助産婦として働き、子供や孫にも恵まれていて、誕生日には家族が集まりお祝いしてくれる。しかし92歳のマドレーヌ日に日にできない事が増えていき、誕生日パーティで2か月後の10月17日にこの世を去る事を告げる。家族は当然反対するが、マドレーヌの決意は絶対揺るがないものだった。

 フランスの元首相リオネル・ジョスパンの母の実話を基に描かれているので、92歳のマドレーヌの終活を家族の思いを交差させながらやさしいタッチで描く。親族ではないが家族同然に過ごしてきたお手伝いさんの黒人女性との関係性にはしっかりと育まれた信頼関係が見える。家族は尊厳死を受け入れる事は当然できない。イライラをぶつける兄、反対しながらも母の気持ちを必死で理解しようとする娘、仲良かった孫も、それぞれがそれぞの形でマドレーヌの決意を受け止め考え、それにより前進していく。

 シンプルなストーリーの中に、過去の回想が交差し、昔はトイレを手伝ってもらってた母親と今は立場が逆転してしまっている皮肉。娘以上に母親は自分の下の世話を娘にしてもらう事こそ屈辱的な事はないだろう。

 尊厳死の決意を揺るがすような出来事も何度かあり、マドレーヌに美しい笑みが見られる瞬間がある。入院した際に隣のベッドになった男性との会話や助産婦としての経験が生きる場面に遭遇することもある。かつての恋人に会いに行く場面もある。それでも彼女の決意は揺らぐことはなかった。生きていれば楽しい事はある。いやそうではないのだ。この先できないことがどんどん増え、家族に迷惑をかけることになるだろう。自分は認知症になり暴れたり徘徊するかもしれない。彼女の決断は家族のためなのだ。それが見えてきたとき涙が止まらなかった。親が願うのは子供の幸せなのだ。そうして子供の幸せこそは親の幸せそのものなのだ・・
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