グラッデン

マンチェスター・バイ・ザ・シーのグラッデンのレビュー・感想・評価

4.2
序盤の描写から、喪失を抱えた人間の背中には哀愁ではなく空虚という言葉が当てはまると思いました。
待つ人がいるから寂しく、会えないから悲しく感じるのであり、自分の日常の一部にあったモノを失うことはそうした感情も欠落させていくのだと感じずにはいられませんでした。

本作は、兄の訃報を受けるところから動き出しますが、物語が進むごとに過去に経験した償いきれない罪も徐々に明らかになります。
家族や仲間に囲まれた日々を描いた主人公の回想シーンと、乗り越えるには困難な喪失の連鎖を背負う現在のコントラストは鑑賞する側にも相応の痛みを共有できたと思います。その意味でも、主演を務めたケイシー・アフレックは非常に良かったです。

一方、主人公の甥っ子は、父親の死後、ガールフレンドを家に頻繁に呼び込もうとしたり、もう1人のガールフレンドがいるバンドの練習に励むなど、日々の生活を充実させようとします。
個人的にはこのような描写に対して当初は嫌悪感を覚えていたのですが物語とともに理解が進み、受け取り方も変わり、共感できるようになりました。

それだけに、最初は違和感の方が強かったのですが、静かな港町を舞台に描かれる彼らの生活を見ていくうちにシンクロする内容でした。マンチェスター・バイ・ザ・シーの寒々とした風景が、春の到来とともに少しだけ穏やかに感じられたようにラストには少し安堵しました。